2位「愛を叫ぶ」/山中拓也『他がままに生かされて』スピンオフ企画「#他がまま推しエッセイ」

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公開日:2021/5/21

 山中拓也初著書『他がままに生かされて』の刊行を記念した特別短期連載。4月にTwitterで #他がまま推しエッセイ のハッシュタグで読者の好きなエッセイを募集。その中で特に人気の高かったBEST3を特別に全文公開します!

山中拓也

愛を叫ぶ (第4章 p.184-187)

 僕は、日本人が好きだ。人の気持ちを察することができて、協調性もある。恥ずかしがって、なかなか「好き」という感情を口にしないけど、それもまた日本の趣を感じるところだ。こうして日本人の国民性を見てみると、自分一人の力で生きていくというよりは、誰かと助け合いながら生きる方が向いているように思う。本当は一人でなんて生きていけない寂しがり屋の集まりで、誰かと一緒にいないと怖い。僕たちは元々、そういうふうにできているんじゃないだろうか。

 しかし、2020年、新型コロナウイルスの影響で僕たちの生活様式はガラリと変わった。仕方ないことだとは思いつつも、いつまでこの状態が続くか分からない不安な日々は思ったよりも心にダメージがあったはずだ。誰とも会話をせずに終わる一日、自分が感染するリスク、人に感染させてしまうかもしれない不安…。目に見えない恐怖と、僕たちは今日も戦っている。

 

 そんな中で、ストレスを感じるあまり人のことを傷つけてしまう人たちも、僕はSNS上でたくさん見てきた。未知のウイルスについての知識がない中で、「自粛すべきだ」「経済を動かすべきだ」と日を追うごとに情報は更新され、意見が変わる。それもまた仕方のないことだというのは分かっている。だが、「みんなと同じように」という国民性は、安心感を生むのと同時に「叩く側」と「叩かれる側」を生み出すことにもなってしまった。このとき僕は思っていた。人の気持ちを考えることができる国民性はどこに消えてしまったのかと。

 それまで、人間関係で自分を保っていた人が一人になり、自分の存在意義を見失ってしまうケースも多かったように思う。僕に届くDMにもそういった声は多かったし、僕のまわりでは自ら命を絶ってしまう人もいた。…僕はただただ悲しかった。人との縁が切れたとき、人間はこんなにも脆く崩れてしまう。この世から消えたあなたに、あなたがいなくなったあとの世界を見せてあげたい。こんなにも悲しんでくれる人がいることを知っていたのだろうか。

 

 命を絶ってしまった人を助けることは誰にもできない。何かできなかっただろうか、自分が声をかけていたら違った結果になっただろうか。そんな後悔をいくらしたところで、もう二度と会えないのだ。しかし、今まわりで同じように苦しんでいる人を助けることはできるかもしれない。そのために必要なのは、きちんと愛情を伝えること。

 それだけだ。人との繋がりを感じられない今だからこそ、人の心に愛情が染み込むはずだ。

「あなたは一人じゃないよ」
「大好きだからいなくならないで」

 思っていることをたったひとつの文にして伝えるだけで、生きていける人の数は確実に増えると思う。僕たち日本人は、言葉でストレートな愛を伝える文化がないから、こんな話をするのは恥ずかしいと思う。だけど、人間関係が消えていって自分は一人になってしまったと思い込んでいる人を救えるのは、一人じゃないという安心感だと思う。

 

「死にたい」と思うことは誰にでもあると思う。そこに対して「なんてこと言うんだ!」と怒るつもりもない。僕自身、生きていて何度も死にたいと思ったことはある。それでも、僕はなんとか今日まで生きている。そして、これからどれだけ追い詰められるようなことがあったとしても、自分からこの世を去るという選択はしないと決めている。

 少し話は変わるが、僕は奈良のライブハウスで働いていたときに、仲間を一人亡くしている。その日もいつもと変わらない日常が流れていた。もうなにを話したかも覚えていない。それくらいとりとめのない会話だったのだろう。ライブハウスを後にしたその人は、深夜交通事故で亡くなった。昨日まで生きていた人が、今日はもういない。彼の訃報を聞いたとき、会話して笑った昨日の出来事が、すごく昔のように思えた。僕が、もう少し会話を早く切り上げていたら彼は生きていただろうか。いや、もっと話して帰る時間が遅くなっていたら助かったか。もう帰ってはこない彼のために、できるはずだったことを考えては自分を責めた。もし、結果がなにも変わらなかったとしても、大切に思っていることを伝えていれば自分の気持ちはもう少しだけ楽だったのだろうか。そんなことも考える。結局、後悔の根源になるものは、ちゃんと生きてるうちに愛を伝えられたか?ということだ。

 

 さっき書いたように、人のことを救うために愛情を伝えることは大切だ。だけど、人にかけた言葉で自分が救われることもあるような気がしている。だから、先の見えない不安に立ち向かっていくために、「ありがとう」や「ごめんね」、「愛してるよ」という言葉を伝えることを忘れないでほしい。

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山中拓也●1991年、奈良県生まれ。ロックバンドTHE ORAL CIGARETTESのヴォーカル&ギターであり、楽曲の作詞作曲を担当。音楽はじめ、人間の本質を表すメッセージ性の強い言葉が多くの若者に支持されている。17年には初の武道館ライブ、18年には全国アリーナツアーを成功におさめ、19年には初主催野外イベント「PARASITE DEJAVU」を開催し、2日で約4万人を動員。20年4月に発売した最新アルバム『SUCK MY WORLD』は週間オリコンチャートで1位を獲得。