嘘をつかない生き物/巴奎依の社会不適号㉜

アニメ

公開日:2021/5/14

巴奎依
撮影=山口宏之

私は今、猫と暮らしている。
1歳7ヶ月のヒマラヤンという種類の男の子で、名前はシャルモン。

猫の1歳7ヶ月を人間でいうと、実はもうだいぶ大人で、私の年齢を越しているくらいだと思う。

シャルモンという名前の由来は、私が4歳から始めたクラシックバレエから来ていて、
クラシックバレエにあまり詳しくない人でも知っている人が多いであろう『くるみ割り人形』に登場する王子様から名前を決めた。

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実はこの『くるみ割り人形』に登場する王子様には、確かに定められた名前がなく、バレエ団や披露される国によって、さまざまな呼び方をされている。

シャルモン王子だったり、チャーミー王子だったり。

この王子の名前は大体、魅力的とか可愛らしいとか、そういう意味合いである必要があるらしい。
シャルモンはフランス語なだけである。

昔から猫に触れる機会はあっても、子猫をいちからひとりで育てるのは完全に初めてだったため、毎日が試行錯誤の連続だった。

どんな味が好きとか、どこを撫でられるのが好きとか。我々人間は彼らの好みを、リアクションを見て察するしか手段がない。

要求もそうだ。
トイレを掃除してほしい、おやつがほしい、撫でてほしい、体調が悪い。

同じ「ニャー」でもすべて意味が違うらしい。
難しすぎる。

言葉が通じないことにすごく葛藤をするんだろうかと、共に暮らし始めた当初は思っていたが、今ではその逆だということがわかった。

言葉がないから、嘘がないのだ。

シャルモンに幸せを貰う瞬間がある。
それは、彼を撫でたときに、心の底から溢れ出るような「幸せの顔」をするとき。

にっこり笑ったような、嬉しそうな、気持ちよさそうな、本当に「幸せの顔」と呼ぶのが一番適している表情をする。

彼にとっての幸せとは何なのだろうか

彼は今幸せなのだろうか

彼は私の元に来て幸せだと思ってくれているだろうか

とにかく幸せでいつづけてほしいあまり不安になる私の気持ちを、一瞬で吹き飛ばす顔をする。

私の愛情の注ぎ方は正しかったんだ、と思えるのだ。
私にとって、嘘をつかないという安心感を持った生き物は、あまりにも貴重だ。

ざっくりと憧れている、将来の過ごし方がある。

自分が60代、70代になった頃、蔦が絡まった一戸建てに暮らし、家の中にもたくさんの蔦と植物を生やして、猫3匹と暮らすのだ。

そして近所の子どもに、「魔女のおばあさん」とか「猫のおばあちゃん」と呼ばれて怖がられるのが理想である。

ともえ・けい
2012年よりA応P(アニメ“勝手に”応援プロジェクト)のメンバーとして活動をスタート。2020年8月2日に、A応Pを卒業。現在、インターFMにて毎週土曜28:30〜「DJサブカルクソ女の音楽解体新書」にてDJ番組を担当、DJCD「A応P BEST DJCD PRODUCED by DJサブカルクソ女」をリリースするなど、「DJサブカルクソ女」としても活動中。社会不適合者(自称)。
公式Twitter:@kei_tomoe
公式Instagram:kei_tomoe_official