肺が弱ると心臓や血管にも影響が!? 肺の免疫システムを維持しよう/最高の体調を引き出す超肺活③

健康・美容

公開日:2021/5/28

最高の体調を引き出す超肺活』から厳選して全5回連載でお届けします。今回は第3回です。新型コロナウイルスで、もっともダメージを受ける臓器・肺。これまで注目を集める機会がなかった肺にこそ、最高の体調を引き出す力が秘められています。自律神経研究の第一人者が、肺の重要性を徹底解説!

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最高の体調を引き出す超肺活
『最高の体調を引き出す超肺活』(小林弘幸:著、末武信宏:監修/アスコム)

肺は心臓や血管の健康と深く関わっている

 健康的な大人が1分間に吸い込む酸素の量は、およそ500ミリリットルといわれています。そのうちおよそ350ミリリットルの酸素が肺胞から血液に取り込まれています。

 しかし、肺胞が壊れるなど肺が弱っていると、肺胞から取り込める酸素量が減ってしまいます。これを脳は酸素を運ぶ血液が不足していると認識し、心臓にもっと血液を送るように命じます。すると、心臓や血管に負担がかかり、肺以外の部位に疾患が発生してしまう危険性があります。

 たとえば、「肺高血圧症」という病気があります。これはなんらかの原因で肺と心臓をつなぐ血管が細くなり、血液が流れにくくなったことで、心臓に過度な負担がかかり、全身の血流にまで障害が出てくる疾患です。はじめは動いたときに息切れがする、疲れやすい、胸の痛みや動悸、食欲不振やむくみなどの症状が現れ、病態が悪化すると心不全に陥ることもあります。

 つまり肺は、単に酸素と二酸化炭素を交換するだけの場所ではなく、心臓や全身の血管の健康とも深く関わっているということです。最近、息切れをしやすくなったと感じる人は、意識的に肺を鍛えていくことが必要になってきます。

肺が衰えると免疫システムに不具合が生じる

 成人は、1日におよそ2万リットルの空気を吸い込んでいます。重さにして20キログラム以上です。空気の中には、ほこりやすす、カビといった粒子の大きなものから、細菌やウイルスなどの小さな病原体まで、体に有害な物質が含まれています。

 これらは普通に生活しているだけで口や鼻から入り、気管に到達します。直径が3〜5マイクロメートル未満の極めて小さな粒子だけ肺の奥まで侵入することができます。新型コロナウイルスは0.05〜0.2マイクロメートルの大きさなので、肺の奥まで到達することができるのです。

 

 しかし、健康な人の呼吸器には侵入者から体を守る防御システムが備わっています。

「線毛」という筋肉でできた突起が高速で動いてガードする線毛運動です。

 線毛は1分間に1000回を超える速さで動いており、気管内部を覆っている粘膜層を動かします。この働きによって、ウイルスなどの病原体が侵入してきても、粘膜層が捕獲し、捕らえられた病原体は咳とともに口に戻され、食道に飲み込まれる仕組みがあります。

 

 仮に肺胞までウイルスが到達したとしても、肺胞の表面には肺胞マクロファージという免疫細胞が待機しています。肺胞マクロファージは病原体を殺傷して消化してくれる頼もしい免疫細胞です。

 また、もし肺が深刻な危険にさらされても、肺には血液中を巡回している別の免疫細胞を呼び寄せ、徒党を組んで病原体を撃退してくれる免疫システムもあります。

 

 このような肺の免疫システムを正常に維持するには、全身の免疫力を高めることはもちろんのこと、肺そのものの健康を維持することが大切です。

 肺胞が壊れるなど肺に疾患があると、肺が本来持っている一連の免疫システムが機能不全になり、感染症が重症化する危険性があります。

肺の衰えは20代から。しかも壊れた肺胞は元に戻らない

 風邪がなかなか治らなかったり、咳や痰が続いていたり、階段を上るくらいで息切れしてしまう人は、肺が弱っている可能性があります。こうした症状を持つ人は、肺の機能低下が進みやすい傾向があり、早めに対策することが大切です。

 肺の機能は20代ごろから加齢とともに誰でも低下していきます。とくに喫煙者は40代以降になって急速に機能低下が進行することがあります。

 これは、気管や肺胞に炎症が起こっているからです。肺胞に炎症が起きると、酸素をうまく取り込めなくなり、それが息切れの原因になります。炎症がひどくなると、COPD(慢性閉塞性肺疾患)という病気を発症することがあります。

 

潜在患者はおよそ530万人。怖い肺の病気

 COPDの初期の自覚症状は、運動時に呼吸が苦しくなったり、慢性的に咳が続くことなどが挙げられます。進行すると、着替えや入浴などの日常生活でも息切れし、重症患者は酸素ボンベを24時間手放せない生活になります。

 肺に炎症が起きると、ウイルス感染や肺炎、アレルギー反応が起きやすくなり、それがまた肺を傷つけるという悪循環に陥ります。COPDは新型コロナウイルス感染症においても、年齢にかかわらず重症化リスクが高くなる基礎疾患のひとつに数えられています。

 また、肺炎による死亡でもっとも多いのが、COPDから肺炎になるケースです。COPDから肺炎になった人は、息を吸っているのに酸素が肺に入ってこず、吸い込もうとすればするほど息苦しさが募り、「まるで水の中で溺れているような苦しみ」と表現する人もいます。

 さらに、COPDの怖いところは、呼吸機能低下の自覚症状がないレベルでも、知らず知らずのうちに運動量が減り、糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病を進行させてしまう点が挙げられます。

 

肺を鍛えることで呼吸機能の低下を抑える

 COPDは喫煙経験者のおよそ15パーセントが発症するといわれ、また最近になって喫煙経験がまったくなくても発症するケースがあることがわかってきました。日本の年間治療者数は20数万人ですが、潜在患者数は530万人を超えると示唆されています。

 次のような人は、とくに注意が必要です。

□喫煙者(過去に喫煙歴がある人も含む)
□ぜんそくなどの呼吸器疾患がある
□風邪が3週間以上治らないことがある
□1日に咳が何度も出る
□黄色や粘り気のある痰が出る
□呼吸すると、ゼイゼイ、ヒューヒューと音がする
□長い坂や階段を上るときに息切れする
□歩いていると、同年代の人についていけない

 肺胞は一度壊れてしまうと再生することができません。そして、どんな人でも20代ごろから呼吸機能は必ず低下していきます。しかし、日頃から肺を鍛えることで、呼吸機能の低下を抑えることは可能です。喫煙者の場合は、早期に禁煙すればするほど、呼吸機能の低下率は低くなります。

<第4回に続く>

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