小さな「田舎もん」/オズワルド伊藤の『一旦書かせて頂きます』⑮

小説・エッセイ

公開日:2021/5/28

オズワルド伊藤
撮影=島本絵梨佳

 売れたい理由は大きく分けて2つある。
 まずは自分の為に売れたい。たくさんの人に面白いと思われたいし、金だってしこたま欲しい。
 売れることよりも金を稼ぐことよりも大切なことがあるなんてのは、綺麗事とまでは言わないが、それは達成した時に自分の言葉として産み落としたいし、今まで生きてきた人生を一生かけて肯定するには至らない。
 死ぬまでに、胸を張って自分が何者であったのかを誇れるようになりたいのよ僕は。

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 そしてどうしても売れたいもう1つの理由は、自分を応援してくれる人達に報いたいから。
 それは親であったり、妹であったり、友達であったりバイト先の人であったり。
これもまあ綺麗事っちゃあ綺麗事だし、結局のところ巡り巡って自分の為であることと変わらないのかもしれないが、みなさんは間違ってなかったですよということを証明したいのである。
 売れなきゃいけない理由をいくつ持っているかはそっくりそのままモチベーションに繋がるような気もするし。

 そんな我々の味方達の中でも、なんなら一蓮托生のチームメイト。それがマネージャーさん。
 芸人が売れる為にめちゃくちゃに必要不可欠な存在であり、マネージャーさん次第では仕事の増え方なんてのも嘘みたいに変わってくる。
 その点において、我々オズワルドはかなりのアドバンテージを得ている。
 我々のマネージャーさんである白坂千尋はとにもかくにも最高なのである。

 彼女が僕達のマネージャーになったのは約1年前。
 前任の小菅マネージャーは、『99人の壁』というクイズ番組で吉本社員代表としてお笑いクイズに挑戦し、ウルトラお笑いマニアである大林素子さんとのクイズ対決で圧倒されるも、万事休すで出題された、「この方の妹は誰でしょう?(オズワルド伊藤の妹は誰でしょう)」という写真クイズに、番組史上最速の記録を叩き出して回答する程に我々とはツーツーカーカーであった。また、我々がM-1決勝に進む為にもがいていた時期を、立場をかえりみず支えてくれた悪友でもある。
 そんな小菅マネージャーが昇進し、マネージャーが代わると聞いた時は、元中日星野監督ばりの抗議をかましたもんである。誰とかはさっぱりわからんが乱闘寸前みたいな心持ちでしたわよ。

 まあこればっかりは会社のルールだし、仕方ねえかとしぶしぶ受け入れた我々の前に現れたのは、推定身長コアラくらいの小少女(こしょうじょ)だった。まさかあの本気出したらアタッシュケースに入れられるサイズの少女が僕より年上だと知った時はド肝抜かれたよ。
 それが白坂マネージャーとの出会いであった。

 そこから彼女とのまさに一蓮托生の日々が始まるまでに時間はかからなかった。
 だって本当にすんごいんだから。バイタリティとか、気合いとか、青森訛りとかすんごかったんだから。

 僕の遅刻癖が直らずにいた頃、もうみんなで一緒に住みましょうとか口にした時は、なんておっかないことを言うのだろうと思った。

 単独ライブに僕の妹(天才女優伊藤沙莉)にも出てもらうことが決まったのだが、スケジュール的に稽古には出られず、代わりの台本読みに名乗り出た彼女の「活字を読むときだけ訛る」という鬼グセが発覚した時は、タクシー代渡してすぐ帰らせた。

 公園で2人で飯を食い、喫煙所から戻るともう公園でパソコンを開いていた時は、ニューヨークの証券マンじゃないんだからと思った。

 僕らのことをバカにしていた社員さんに対して、僕達以上に悔しがり涙した時は、ああまた1つ売れなきゃいけない理由が出来たなと思った。勝たなきゃならない理由が出来たなと思った。
 僕らがM-1で負けて楽屋に戻ると僕らより先に泣いていた時は以下同文。

 あと最近知ったのだが、どうやらサックスが吹けるらしい。もうビックリ女子である。

 要するにマネージャーのかがみである。
 だから僕達は彼女に報いたいのである。彼女も報われるべきなのである。
 最近ことあるごとに「いつか青森に帰りて」と呟くあの「田舎もん」に、オズワルドが売れていく様を、M-1で優勝していく様を、目に焼き付けさせてから青森に帰したいのである。
 東京でオズワルドを担当していたと、猫背な彼女に街中を胸張って歩かせたいのである。

 売れたい理由は大きく分けて2つある。
 まずは自分達の為に売れたい。
 もう1つの理由は、自分達を応援してくれる人達に報いたい。
 我々オズワルドのマネージャー白坂とは、現在そのど真ん中に君臨する女性である。

 一旦辞めさせて頂きます。

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オズワルド 伊藤俊介(いとうしゅんすけ)
1989年生まれ。千葉県出身。2014年11月、畠中悠とオズワルドを結成。M-1グランプリ2019、2020ファイナリスト。


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