きっと誰もが持っている、尊い日常を描いた随筆マンガ作品集『急がなくてもよいことを』/マンガPOP横丁(62)

マンガ

公開日:2021/6/4

急がなくてもよいことを
『急がなくてもよいことを』(ひうち棚/KADOKAWA)

 私が小学生の頃、“○○おじさん”という人物が地元に複数存在していた。その代表だったのが、我々子どもたちが自転車に乗っている彼を見つけては「バイバーイ」と声をかけると、「バイバーイ」と返答し、その場で前カゴに詰まったお菓子をくれるという、“バイバイおじさん”だ。出没時間はだいたい夕方の4時から5時くらい。主に大きな公園の沿道にいるパターンが多く、発見してはお菓子ほしさにみんな「バイバーイ」合戦になって熱かった。中には、そのおじさんの家の前で待機する強者もいたけど。ちなみにもらえたお菓子はメジャーな駄菓子もあったが、ほとんどは金や銀のアルミのようなもので包装されたキューブ状のおつまみツナだったのを覚えている。いま考えてみたら、それはバイバイおじさんの大切なお酒のツマミだったのではないか……? 思い返すと、あの頃はいろんなおじさんがいた日常があった。

 何気ないけど尊い、自身の身の回りの日常。みなさんの人生にもそういう日常がきっとあるハズ。今回は、そんな半径5メートル以内の一瞬一瞬を描いた随筆マンガ作品集、『急がなくてもよいことを』(ひうち棚/KADOKAWA)をご紹介。

 この作品は、主に過去発表された同人誌やSNSより集約し、ひうち棚先生が過ごしてきた日常を、子ども時代から順を追って描いた全18話からなる短編集だ。ひうち棚先生の心に記録されている思い出や風景が額に収められ、それを我々がひとつひとつ鑑賞している感覚で楽しめる。

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 さてそんな風景の中からひとつ紹介すると、小学生時代の『ひとごと』というエピソード。給食に嫌いな食べ物があるせいで、完食まで教室に残って食べているのをよく見るクラスメイトの話なのだが、そういう友達がいたなぁと懐古する自分がいた。ちなみに私のなかでの“食”の思い出といえば、はりまの小学生時代、道端で見た目が超キレイな石ころを拾い、口に入れて飴玉のように味わう(?)ブームがあったのを思い出した……。いま考えればよく大事に至らなかったな、自分! そもそも“食”じゃないってツッコまれるのは覚悟しております。

 さて、そんな子ども時代から始まり、大人になって家族を持ち、自分の子どもと戯れる風景まで、特に大きな事件が起きることなく本の中で時が流れていく。後半のエピソードは実に微笑ましく、表題である『急がなくてもよいことを』では、まさに家族と一緒に過ごす瞬間の尊さや、このまま穏やかにゆっくり時が流れてほしいという願いで溢れたエピソードになっている。そして各話の終わりには、作者によるその当時の振り返りや説明が書かれているので、読み返せばさらに深く作品を楽しめるようになっているのだ。ちなみにこの作品は大判サイズのため、書店でお探しの際には、大判サイズコーナーで確認していただきたい。

 最後に、作者がこの作品で伝えたい雰囲気は、この本の表紙絵に詰まっているといっても過言ではない。この風景が“尊い何気ない日常”であると感じ、POPの背景として使わせていただいた。改めて見ると、自分が作ったとはいえ……いいわぁこれ。

マンガPOP横丁

文・手書きPOP=はりまりょう

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