はじめてのメタル/メタルか?メタルじゃないか?⑬

エンタメ

公開日:2021/6/12

 “新しいメタルの誕生”をテーマに“BABYMETAL”というプロジェクトを立ち上げ、斬新なアイディアとブレること無き鋼鉄の魂で世界へと導いてきたプロデューサー・KOBAMETAL。そんな彼が世の中のあらゆる事象を“メタル”の視点で斬りまくる! “メタルか? メタルじゃないか?”。その答えの中に、常識を覆し、閉塞感を感じる日常を変えるヒントが見つけられるかもしれない!!

メタルか? メタルでないか?
Photo by Susumu Miyawaki(PROGRESS‐M)

 ロック雑誌なんかを読んでいると、「初期衝動」という言葉をよく目にする。

 ロックの初期衝動をそのまま詰め込んだような……云々と、バンドなり曲なりを解説する際に頻出するワードだ。

 初期衝動。

 平たく言えば、はじめての体験。

 ワタクシの「はじめてのメタル」は聖飢魔Ⅱだった。まだ中学生になったばかりで、プロレスが好きなどこにでもいる少年だった。当時愛読していた『週刊少年サンデー』の表紙に載ったある人物の写真にワタクシの目は釘付けとなった。真っ白い顔に目元と頬に深い色合いのメイク (もちろん後にそれがメイクなどではなく素顔であることを知り驚愕する!) 、髪の毛は金髪で逆立っていた。そう、デーモン閣下だ。その異様な容貌に、ワタクシは即座に思ったものだ。

「新手のプロレスラーか! 新日? 全日? それとも?」

 しかし、サンデーの中面に載った記事によって、表紙の男がバンドマンであることを知り、さらには悪魔であるという正体を知るに至り、それまで経験したことがなかったほどの興奮が押し寄せてきた。

 悪魔で構成されたバンドとはどんなものか?

 すぐに近所のレコード屋に駆け込んだ。当時はコンポ(これも死語かもしれないので一応解説しておくと、コンポーネントステレオの略で、アンプやスピーカー、CDプレーヤー、カセットデッキ、ターンテーブルなどがセットになった家庭用オーディオシステムのこと)などまだ持っていない身。古ぼけたラジカセで聴くには、カセットテープを買うしかなかった。なのでワタクシは、迷わず聖飢魔Ⅱの第二教典『THE END OF THE CENTURY』のカセットテープをなけなしの小遣いをはたいて購入した。

 

 一部の鳥類は、最初に見たものを親だと思い込む「刷り込み」という本能行動があると言う。

 衝撃とか感動ではいくら言っても言い足りないほど猛烈にのめり込んだ。自分が悪魔になったような気さえした。まわりの物事が陳腐に感じた。テープはびろんびろんに伸び切ってしまうほど聴きまくった。そのおかげで、第二教典の1曲目から8曲目まで、完全にワタクシの脳髄に刷り込まれている。それは今でも決して褪せることはない。

 聖飢魔Ⅱとの出会いからメタルという音楽があることを知り、洋邦問わず掘りまくる日々を送っていくことになる。ワタクシのメタラーとしての人生が、つまり本当の人生が始まったのだ。

初期衝動は大切。でも、それだけでは生きていけない

 このように、初期衝動というものは、それがどんなジャンルのものであれ、その人の人生を左右するくらい大きなものなのである。

 しかし、初期衝動ばかりでは生きていけないのもまた真実。

 ビジネスシーンに置き換えて言えば、昔の成功体験にこだわるあまり、その時の状況や時代感を無視してしまい、まったく機能しなくなるということになってしまう。やはり、生きていくにはアップデートが必要なのだ。

 では、メタルバンドがどのようにアップデートしているか、そのわかりやすい例がライブだ。

 レジェンドと呼ばれ、今でもアリーナクラスを満杯にできるバンドの代表格と言えば、メタリカだろう。彼らのセットリストを、例えば十年前と今のものを比べたら、メインどころにラインナップされている曲はほとんど変わらない。はっきり言えば、ずーっと一緒なのだ。しかし、ライブの見せ方は10年前と今とでは明らかに違っている。

 360度ステージでその床面がすべてLEDになっていたり、さらにはステージ上にはアンプやモニターはなく、徹底した映像演出で観せていくなど、テクノロジーの進化をこれでもかと導入したステージが体感できる。だから、10年前20年前の『Battery』と、現在の『Battery』は、ライブ・エンタテインメントという側面で言えば、まったく別物なのだ。

 さらに、ファンやリスナーへの伝え方もアップデートされている。

 昔はオーディエンス自身が禁止を承知の上で隠し持ったテープレコーダーに録音したものをブートレグとして個人的に楽しんだり、ファンの間で共有していたりしたものだが、今ではバンド側がその日のライブ音源をオフィシャルとして配信していたりする。ちょっと前だったらそれがUSBだったりしたわけだが、そうしたメディアの進化ともうまく付き合っている。

 

 少し余談になるが、サブスクリプション・サービスには、こんなマイナーなメタルバンドの廃盤になったアルバムまで! という音源が普通にアップされていたりする。どいうわけか、メタルとテクノロジーは相性がいいようで、それがメタルの生命力の強さなのか何なのか、これはこれでまた別の機会に書きたいと思う。

 

 初期衝動は忘れるな。だけど、こだわるな。

 これが、ワタクシがメタルから学んだ鋼鉄の人生訓である。

メタルか? メタルでないか?
Illustration by ARIMETAL

<第14回に続く>

KOBAMETAL(コバメタル)〇プロデューサー、作詞家、作曲家。
Twitter:@KOBAMETAL_JAPAN
Instagram:@kobametal_official
Clubhouse:@kobametal