「まつもとあつしのそれゆけ! 電子書籍」 【第16回】話題のLINEで電子書籍!? トークノベルの中の人に話を聞く

更新日:2013/8/14

トークノベルの進化の方向は?

まつもと :LINEは電話帳をベースにした濃いソーシャルグラフが特徴です。そこで楽しむことができるトークノベルも、友だち同士で楽しむといった方向性はないのでしょうか?

山口 :トークノベルという名前が付いているので、1人で読むという印象がたしかに強いのですが、あくまで私たちはエンタメコンテンツとして考えていますから、読み物として限定しているわけではありません。純粋にゲームにするという方向もあり得ると思いますし、テキストだけでなく画像も表示できるのも特徴ですから、そこに複数のユーザーが参加してみんなで遊ぶという方法も考えています。

まつもと :ノベル、という枠組みには囚われない、ということですね。

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山口 :LINEのトークと呼ばれるチャットビューワーでどうやって楽しんでもらうことができるか、というのが肝です。そこにどういう企画を入れるか? 私たちだけでなく、広くアイディアを募っています。

まつもと : LINEがプラットフォーム化したことによって、NHNさん以外も参加できるようになりました。

大河原 :トークノベルをきっかけに、いろんな方がアイディアを出してくれるのがうれしいですね。

まつもと :トークノベルには講談社がコンテンツを提供することが決定し、新作の投入が予定されていますが、そういった他の会社の参加状況というのはどんな感じなんでしょうか?

山口 :作品の権利を持っている方が、そのトークノベル化をご提案されるというケースもありますが、結局のところ作品を生み出す方々が一番うまくトークノベルを活用いただけると考えています。そこから生まれる優れたコンテンツを、「トーク」という画面でどう見せれば魅力的なのかというノウハウは我々からお伝えしつつ、作っていただいているという状況ですね。

まつもと :作っていただいている、ということは出版社からテキスト原稿をもらってそれをNHNさんで加工しているという訳ではないのですね?

山口 :トークノベル用に変換するツールはすでにご提供済みなので、基本的にはそこに流し込めばOKです。ただ、そこから編集する作業は必要です。

大河原 :文字を表示して何秒待って次の選択肢を表示させるとか、どの選択肢でどちらに分岐するということを指示すれば良いだけですから操作そのものは難しくありません。ただ、作家の方が書籍用に書いた文章をそのままトーク画面に表示させると、情報量が多すぎて読みづらいんです。

まつもと :紙の本とスマホの画面では表示できる情報量が全然異なりますもんね。

大河原 :文章を削ると体裁が崩れてしまいますので、結局文章や表現を変えないといけませんから。お客さんを飽きさせないためにも、1つ1つの吹き出しの大きさや表示のタイミングもメリハリが大事ですから。そのあたりが書籍との大きな相違点ですね。逆に言えば読み方を読み手に委ねるのではなく、それを操作、演出することができるんです。

山口 :実際リフレインも最初のシナリオから3分の1を削りましたからね。

大河原 :ネタバレになりますが、最初のタイムリープまで20分くらいまであったのを10分以内にしようということでバッサリ切ったんです。

山口 :状況を説明する文章(地の文)を全部引っこ抜いて、会話だけでそれが分かるようにしましたね。

かべ :実際小説によく見られるキャラクターの描写もないですよね。

大河原 :そこはLINEならではなのですが、アイコンで表現することを狙いました。

まつもと :読んでいると、携帯小説に近い印象を受けます。

大河原 :もともとはミステリー小説の体裁だったんですが、結果的にそうなりましたね。吹き出しで読んでいくと紙の本と違って、前書かれていたことが頭に残りにくくて。2つくらい前の文章しか覚えていられないんです。伏線とか張っちゃうともう無理で(笑)。

まつもと :ミステリーなのに伏線はれない……。

大河原 :お客さんが「これ何だっけ? 誰だっけ?」ってなってしまったらそこで離脱してしまいますから。

山口 :というのも1つの手法だと思っていて、これからさまざまなクリエイターが参加することによって、トークノベルならではの作品が生まれてくることを楽しみにしています。一般の方に創作活動の場としても活用いただいたり、新人を発掘する場となることも目指したいなと。いま電子化やインターネットへの取り組みを積極的に進めている講談社さんも、このあたりの感覚をすぐに飲み込んでいただきましたので、期待しているところです。

まつもと :LINEはアイコンを販売するなどのアイテム課金モデルをとっていますが、トークノベルはビジネスモデルはどんなイメージなんでしょうか?

山口 :基本的にはトークノベル単体での収益化を目指しています。有料で続きを読むスタイルを取ったり、トークノベルを原作とした書籍化やゲーム化などの商品化展開ですね。トークノベル自体も先ほどお話ししたようにさまざまな進化を考えていますので、それに応じてマネタイズの方法も進化していくはずです。

大河原 :今回リフレインで「LINEでこんな楽しみ方もできるよね」という言わば遊び場を提供させていただいたので、これをきっかけに小説に限らずいろいろなクリエイターが「自分ならこうする」というチャレンジをしていただけるとうれしいですね。「そうきたか!」と思わず唸ってしまうようなアイディアに期待しています。

かべ :わかりました。今後の展開も楽しみにしてます!

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■ダ・ヴィンチ電子ナビ編集部:d-davinci@mediafactory.co.jp

イラスト=みずたまりこ

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