子どもの自己効力感を育てる「すごい声かけ」は? 知っておきたい成功体験の積ませ方と励まし方

出産・子育て

更新日:2021/7/8

 テストで失敗したり、大事な試合でミスしたり、お友だちと喧嘩したり…子どもたちの心というのはなにかとダメージをうけて傷つきやすい。親としてやさしく励ましたつもりが「自分には無理!」と逆ギレされてしまうことも…。そんなとき親がかけるのにふさわしい「声かけ」ってあるの?

「ストレスに弱い、自信がない、すぐあきらめる子でも大丈夫! 心が弱いと思える子ほど、親の声かけでどんどん変わります」というのは、書籍『子どもの心を強くする すごい声かけ』(主婦の友社)の著者・足立啓美先生。ポジティブ心理学の専門家である足立先生によれば、親は子どもが抱いたネガティブ感情を否定せず、「(それを)どう受け止め、どう声かけをするか」に注意するといいそう。その結果次第で「レジリエンス」(=逆境や困難で折れたりへこんだりしても、そこから立ち直るしなやかな心の強さ)を育てることができるといいます。

 本稿では、本書から一部抜粋して、「結果だけじゃなく、努力した過程をほめる」ことについてご紹介します。

子どもの心を強くする すごい声かけ
『子どもの心を強くする すごい声かけ』(足立啓美/主婦の友社)

結果だけじゃなく、「努力した過程」をほめよう

 誰もが人生のどこかで、うまくいかないことや苦しいことを経験します。子どもが小さいころは、一緒に乗り越える手助けをしてあげられるかもしれません。しかし、長い人生において、ずっと一緒にいて助けてあげることも、親の力ですべての苦しみをとり除き続けることもできません。

 だからこそ、子どもの内側に「自己効力感」の種を育てておくことが必要です。それが、子どもが苦しみから受けるダメージをやわらげることにつながります。

 自己効力感とは、「自分はやればできる」という自分の能力への信念のこと。自己効力感が高い人は「状況を変化させることができる!」と信じているので、困難な状況にあっても乗り越えるために行動ができるのです。

 

「ちょっと難しかったけどできた!」が自己効力感を伸ばす

 自己効力感を伸ばすのに、とてもよい触媒となるのが「成功体験」です。

 先日、娘を連れて遊びに行った公園で、滑り台の横についているポールから降りられずにいた小さな男の子が、意を決したようにポールからスルッと降りてきたことがありました。その男の子は公園でよく見かける子で、2週間ほど前から、降りたいけど降りられない姿を見てきたので、私は思わずうれしくなって、「降りられたね」と笑顔で声をかけました。

 男の子もうれしそうに笑顔を返し、「怖くて緊張したけど、昨日は階段で3段ジャンプができたから、ポールを降りるのもできると思った!」と話してくれました。

 このように、過去の「少し難しく感じるけど、挑戦してうまくいった経験」が、成功体験の理想です。新しい挑戦への「きっとできる」と思える力を育てます。

 

 自己効力感を提唱した元米国心理学会会長、アルバート・バンデューラ博士によると、自己効力感を育てるためには、次の四つの大切なポイントがあります。

 

自己効力感を育てるポイント① 成功体験を重ねる

 先の男の子のように、成功体験を積み重ねるうちに「自分には立ち向かう力がある!」と自信がついていきます。大きな目標の場合は、その道のりを、いくつかのステップに分けることです。たとえば、たくさんの宿題を前に子どものやる気が出ないようなら、まずは1ページ終わらせることを目標とするのです。1ページ終わるごとに「できた!」という成功体験が積み重なり、自己効力感が育っていきます。

 小さなお子さんの場合は、何か行う前には、見通しを示すのがコツです。「初めにこれをして、次にこれをやってみよう。そして、次は何をする?」と声をかけながら小さなステップをクリアしていくことで、あきらめずに根気よくがんばり続ける力を育てることにつながります。

 注意が必要なのが、成功体験をたくさん積ませたいと考え、子どもに達成してほしい目標の基準を下げてしまうことです。すでに簡単にできることで成功体験を積ませても、子どもたちのやる気や自己効力感を育てる効果はあまり期待できません。

 また、障害をとり除いてあげることで達成する経験ではなく、障害を乗り越えて達成する経験が自信をはぐくみます。「少しがんばればできる(適切なヒントや援助がある)」ところに目標をおき、障害を乗り越える経験をしながら達成できるように必要な援助を与え、導くことが、本当の意味での成功体験となります。

 

自己効力感を育てるポイント② 励ましの声かけ

 うまくできるか不安なとき、「きみならできるよ」という周りの励ましが、大きな力となった人は多いのではないでしょうか。力がある、きっと達成できるということを、繰り返し声をかけてもらうことは、努力を続ける力となります。

 ただ、根拠もなく、全く現実味のない大げさな励ましは逆効果となってしまうので要注意です。また、できていることや努力していることをより具体的に言葉にする、フィードバックも大切です。他者と比べるのではなく、過去のその子自身と比べたときに新たにできるようになったこと、成長していることを伝えましょう。「〇〇をがんばっているね」「半年前よりも〇〇ができるようになったね」と認められることで、「自分は最初はできなくても、少しずつできるようになっているのだ」と認識できるようになります。

 子どもたちはスムーズにできることを想像しがちですから、失敗したときに落ち込んでしまうこともあります。そのようなときは「新しいことに挑戦するとき、できるようになるには時間がかかるのが当たり前だし、失敗は誰もが通る道だよ。うまくできる方法を一緒に考えてみよう」といったかたちで声をかけてあげるとよいでしょう。

 

自己効力感を育てるポイント③ ロールモデル(お手本)

「あの人にもできたなら、自分にもできる」と思えるよいお手本を身近に目にすることも、自己効力感を育てることにつながります。子どもたちにとっては、学校ではクラスメートや先輩、先生、家族では親やきょうだいがロールモデルになる場合が多くあります。そして何より、親が困難に立ち向かう姿を子どもたちはよく見ているものです。今、がんばっている姿を見せることももちろんよいのですが、親御さんたちの過去の体験談を話して聞かせることも、とてもよいお手本になります。

 

 新体操に打ち込んでいる娘さんが、練習中にケガをして大会に出られなくなったとき、自分の体験談を話して聞かせたというお母さんの例をご紹介しましょう。ケガをした娘さんは、しばらく練習ができないため「大会にも出られないかもしれない……」と落ち込んでいたそうです。そこで、お母さんは娘さんの気持ちを受け止めるとともに、自身の体験を話しました。

「お母さんも大切な試験の前に、腕をケガしたことがあるよ。とっても大切な試験だったから、すごくショックだったんだ。結局、その年には試験が受けられなかったけど、次の年にもう一度挑戦したの。勉強がんばって、あきらめなければきっとチャンスはあるって思ったの」。娘さんはそれを聞いて「お母さんも? そうなの?」と驚くと同時に、同じような境遇を乗り越えたお母さんの体験談に心を大きく動かされ、無事、気持ちを切り替えることができたとのことでした。

 

自己効力感を育てるポイント④ 心身の安定

 自己効力感は、ポジティブな感情のときに高まるといわれています。大事な試合やコンクール、試験の前などには、「成功している自分」をイメージして自分自身を鼓舞することで、ポジティブ感情を喚起することに役立つことがあります。

 ところがこのとき、体が疲れていると、ふだんはがんばることができることも、後ろ向きになってしまうことが多くあります。そんなときには、「少し休んでからまたがんばればいいよ」と体を休めることを優先することも大切です。体と心は一体なのです。現代社会は、休息することに罪悪感を持つ人や、リラックスはやるべきことをやってからと考えている人も多くいますが、体を休めることは力を発揮するために、必須なこと。睡眠不足が続くと、不安や抑うつ傾向が高まるという報告もあります。

<第4回に続く>


「子どもの心を強くする すごい声かけ」をAmazonで読む >

「子どもの心を強くする すごい声かけ」を楽天ブックスで読む >

あわせて読みたい