ダ・ヴィンチニュース編集部 今月の推し本+【7月テーマ:旅先で読みたい1冊】

文芸・カルチャー

更新日:2021/7/13

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 ダ・ヴィンチニュース編集部メンバーが、月ごとのテーマでオススメの書籍をセレクトする、推し本“+”。7月のテーマは、「旅先で読みたい1冊」です。

カメラと心が写し取る情景は違う? 本好き、旅好きの心理を刺激する『すばらしき旅』(森本哲郎/ダイヤモンド社)

『すばらしき旅』(森本哲郎/ダイヤモンド社)
『すばらしき旅』(森本哲郎/ダイヤモンド社)

 日常と離れた場所で五感を使い、自分の価値観があぶりだされ、予想外な出会いや展開、自分がちょっと大きくなれるのではとどこか期待してしまうのが旅だと思う。『すばらしき旅―人間・歳月・出会い』は1976年刊行の古い作品だが、世界各国を訪ね、評論家として文明批評や旅行記などの著作を多数もつ、故・森本哲郎氏の教養と着眼点はさすがで、世界の奥行きと面白さを実感する。様々な角度から旅にアプローチし、「旅とは何か」を通して人生でとても大切にしたい考え方を教えてくれる。旅先の喫茶店で、旅先の宿で、開くにふさわしい1冊。きっとその旅の深度が変わるはず。(中川寛子/ダ・ヴィンチニュース副編集長)


時空を超え、遥か遠い世界へと旅に出る『世界をまどわせた地図』(エドワード・ブルック=ヒッチング:著、ナショナル ジオグラフィック:編集、関谷冬華:訳/日経ナショナルジオグラフィック社)

『世界をまどわせた地図』(エドワード・ブルック=ヒッチング:著、ナショナル ジオグラフィック:編集、関谷冬華:訳/日経ナショナルジオグラフィック社)
『世界をまどわせた地図』(エドワード・ブルック=ヒッチング:著、ナショナル ジオグラフィック:編集、関谷冬華:訳/日経ナショナルジオグラフィック社)

 海を渡ってのんびり旅行に行きたい…!! コロナ禍で旅行に行きづらい状況が続く今、そんな気持ちの人も多いだろう。どうせなら時空を超えて、思いっきり旅をしてみるのはいかが? 本作は神話や伝承で語り継がれたもの、探検家の誤解などから生まれた、幻の地図を紹介している。実在しない地図が生まれた背景や、当時信じられていたというエピソードも収録。スマホひとつで世界中どこへでもアクセスできる時代に、未知の世界へ思いを馳せる冒険者たちのわくわく感を味わわせてくれる。(丸川美喜)


行き当たりばったり旅に連れて行きたい『5分で読める! ひと駅ストーリー 乗車編』(『このミステリーがすごい!』編集部/宝島社)

『5分で読める! ひと駅ストーリー 乗車編』(『このミステリーがすごい!』編集部/宝島社)
『5分で読める! ひと駅ストーリー 乗車編』(『このミステリーがすごい!』編集部/宝島社)

 目的地だけを決めて出かける無計画旅が好きな私がお供にするのは、しおりの要らない文庫本だ。本作はタイトル通り5分ほどで読めるショートストーリー集。ひと駅間で起こる短い物語というテーマでミステリーやSF、恋愛小説などさまざまなジャンルの25作が詰まっている。空き時間にページを開いたらどんな話が出てくるか、そんな行き当たりばったり感が旅のスタイルにピッタリなのだ。それぞれの物語の舞台は都会や田舎、外国の駅や電車なので、遠出できない今、つまみ食い感覚で電車旅気分を味わってもいいかもしれない。(坂西宣輝)



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読むだけで“体験した”気になる最強旅行本『河童が覗いたインド』(妹尾河童/新潮社)

『河童が覗いたインド』(妹尾河童/新潮社)
『河童が覗いたインド』(妹尾河童/新潮社)

 道に漂う生活臭とスパイスの香り、こちらに興味が無さそうな路傍の商人、景色がゆがむような暑さ、荘厳な遺跡、肌に張り付くシャツ……本書を読んだ中学生の頃から、私の中に憧憬に似た疑似インドがある。妹尾河童氏の好奇心の赴くまま緻密な手描きイラストと飾らないテキストで語られる生々しいインドは雑多で魅力的だ。この本を手に現地に行ってみたいが、出版から30年、もしかすると“このインド”は紙面の中のタイムカプセルなのかもしれない、とも思う。死ぬまでに確かめに行ってみたい。(遠藤摩利江)


外国が舞台のミステリ小説は、旅と同じ非日常感にあふれている『その裁きは死』(アンソニー・ホロヴィッツ:著、山田 蘭:訳/東京創元社)

『その裁きは死』(アンソニー・ホロヴィッツ:著、山田 蘭:訳/東京創元社)
『その裁きは死』(アンソニー・ホロヴィッツ:著、山田 蘭:訳/東京創元社)

 旅の道中、特に行きの移動手段の中ほど、気分が高まる瞬間はない。旅行を計画した日からずっと恋焦がれた場所に近づいていくワクワク感。そして非日常感。いつもとは違う時間を過ごすのに私が選ぶのが、非日常がたっぷりと詰まったミステリ小説。第1弾に次ぐお馴染みのコンビにくすりとさせられながらの犯人当てミステリに胸が高鳴る。今年も大好きな旅はお預けかもしれないが、ロンドンの街並みや建物の描写も多い本作で外国気分も満喫できるはず。(宗田昌子)


人は通過する。駅はそこにある。過ぎ去った時間への空想がはかどる『無人駅探訪』(西崎 さいき:監修、全国停留場を歩く会:編集/文芸社)

『無人駅探訪』(西崎 さいき:監修、全国停留場を歩く会:編集/文芸社)
『無人駅探訪』(西崎 さいき:監修、全国停留場を歩く会:編集/文芸社)

 自分は千葉の柏育ちで、いつも使っていた最寄り駅は、建物と人とモノにあふれていた。便利だから地元の駅は大好きだけど、親しんだ場所とは異なる風景に惹かれる気持ちもある。『無人駅探訪』のカバーを見かけたとき――10年前の本なのだが――静かに興奮したことをよく覚えている。人は常に行きかい、やがてその土地を離れる者が増え、訪れる人が少なくなったとしても、駅はそこに存在し続ける。それぞれの無人駅の歴史に想いをめぐらせていると、旅先にいるような気持ちになる。(清水大輔 / ダ・ヴィンチニュース編集長)

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