模擬面接のトレーニングで「部長職ができます」と答えた元有名企業の部長。欠けていた視点とは…/「疑う」からはじめる。⑥

ビジネス

公開日:2021/7/17

澤円著『「疑う」からはじめる。』から厳選して全8回連載でお届けします。今回は第6回です。常識に縛られたら、思考は停止する――既存の価値観、古い常識、全部疑ってみよう。問題設定と解決策は、すべてここからはじまる! 元マイクロソフト伝説のマネジャーが新時代の働き方、生き方、ビジネススキルを提案する1冊!

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「疑う」からはじめる。 これからの時代を生き抜く思考・行動の源泉
『「疑う」からはじめる。 これからの時代を生き抜く思考・行動の源泉』(澤円/アスコム)

会社名、役職を外して仕事をしてみる

● 自分を客観的な立場から俯瞰する

 相手の役に立つには、やはり「自分がもっとも価値を出せること」。つまりは、「得意分野」をつくるべく鍛錬することが大切になります。先に書いた、自分の仕事の棚卸しによって、速く終えられることや楽しくできることを見つけることが、まずはやったほうがいいことになるでしょう。

 自分に得意なものがないと、「時間の貸し借り」がフェアではなくなりいずれ機能しなくなります。なぜなら、一方的に他人の時間を奪うことになってしまうからです。

 では、どのように自分の得意分野をつくればいいのでしょうか。

 最近、知人である某社の人事担当者からこんな話を聞きました。ある50代のビジネスパーソンが早期退職をして、退職金をたっぷりもらいつつ転職活動をしようとしたそうです。でも、それまで転職活動をしたこともないからやり方がまるでわからない。そこで、模擬面接でトレーニングすることになり、知人が「どんなお仕事が得意でいらっしゃいますか」と問いかけたときのことです。

「部長職ができます」

 あまりの想定外の返答に、知人はしばし絶句。ちなみに、トレーニングを受けている男性はかなり有名な企業の元部長です。

「部長職……というのは、具体的にはどんなお仕事を?」
「決済とかです」
「決済?」
「いや、稟議書にハンコを捺してですね……」

「それは機械でできますよね?」と、知人は言いかける寸前だったそう。でも、本人にとってはそれが部長としての仕事だったのです。会社から役割を与えられ、特定のフォーマットで稟議書などを提出させて、「ここが空欄のままになっている」「てにをはがおかしい」などとケチをつけて突き返すのが仕事だったわけです。

 すると、当然ながらまったく汎用性がない仕事なので、50歳を過ぎたような年齢では転職先が決まるはずもありません。これは極端な話でもなんでもなく、転職市場で実際によく起こることだそうです。

 こんなことにならないように、みなさんに絶対に覚えてもらいたい大切なことがあります。

「外のものさし」を持つこと。

 自分がマーケットのなかでどんな場所にいるのか。自分はどんな価値を与えられるのか。「外のものさし」を持って、いまの自分を客観的な立場から俯瞰して捉えることで、自分の本当のバリューが見えてきます。

 また、なんとなく習慣でやっていることや、あたりまえのこととして定着しているタスクについて疑問を持つことも大切でしょう。外の目ばかりを気にするという意味ではなく、いついかなるときも自分を客観視しようということです。

 そうした意識が、自分の「時間の使い方」にダイレクトに返ってきます。

 

● アウトプットこそ、自分を変える最強の方法

 では、どうすれば「外のものさし」を持つことができるのでしょうか?

 これについては、まず実際に自分がふだんいる場所から外へ出ることがきっかけになるでしょう。たとえばスポーツが好きならスポーツ関係のボランティアをしてもいいし、なんなら選手を目指してもいい。もちろん、複業を考えてもいいわけです。

 とにかく、「外のものさし」を持つには、アウトプットする場を外に持つことが大切。外の世界で自分がどんな評価を受けるのか、一度晒される状態を意図的につくるわけです。

 言い換えれば、アウトプットしなければならない状況を自分でつくるということ。いつもと同じ生活のままで「アウトプットしなきゃなあ……」と思っていても、いつまでもアウトプットなんてできません。

 もし、いまアウトプットを迫られる状況にないのなら、自分でその機会をつくればいい。これが、「自分を変える」ということです。

 当然、そこでは自分が勤務する会社の名刺なんてまったく通用しません。だからこそ、「自分自身がユニークな立場でないと絶対にリスペクトされない」ということが肌感覚でわかるのです。

 つまり、自分に「タグ」がついていないと厳しいということ。

 たとえば、「あ、プレゼンが得意な澤さんですね」と、会社名ではなく「~が得意な人」と言われなければならないわけです。

 ですから、僕は常に得意なことについては「打率10割」を目指しています。

 本当に自分の軸にしたいなら、そのくらいの意識を持ちたいものです。もちろんミスや失敗は起こるものですが、あくまで目指すのは10割。油断してはダメなのです。

 あのイチローですら、「打率が高い人でも10回のうち7回は失敗する」と言っています。

「自分の記録を塗り替えるには10割以上の力が必要」

 稀代の天才打者ですら、このように考えて日々の鍛錬を積み重ねているのです。

<第7回に続く>

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