会社の強みを知っている?「事業は何か」の問いに安易に答えるべきではない理由/新訂 まんがと図解でわかるドラッカー③

ビジネス

公開日:2021/7/29

藤屋伸二:監修、nev:イラストの書籍『新訂 まんがと図解でわかるドラッカー』から厳選して全5回連載でお届けします。今回は第3回です。ベストセラームック『別冊宝島 まんがと図解でわかるドラッカー』の内容を書籍として大幅改訂! 経営の神様・ドラッカーの理論を事例と60のキーワードとともにひもといていきます。「自社の事業は何か」の問いに、あなたならどう答える? 自社の真の価値を知るために必要な考え方をドラッカーから学ぼう。

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新訂 まんがと図解でわかるドラッカー
『新訂 まんがと図解でわかるドラッカー』(藤屋伸二/宝島社)

顧客の姿を知ればやるべきことが見えてくる
顧客ニーズから強みによる事業のあり方を見出す

顧客が本当は何に喜んでいるのかを知っているだろうか? それが自分の会社の本当の価値=強みである。それが「自分の会社の事業は何か?」(事業の定義)の答えである。

和訳 事業の目的と使命を定義する際、最初に問うべききわめて重要な問いが「誰が顧客か?」。答えは簡単ではない。まして明らかでもない。

原典 “Who is the customer?” is the first and the crucial question in defining business purpose and business mission. It is not an easy, let alone an obvious question.
— Management: Tasks, Responsibilities, Practices —

顧客は本当は何に満足しているかを問え

 事業とは、強みを活かしたとき、飛躍のチャンスを得る。

 強みとは、人よりも簡単にできること。他の人には大変でも、自分にはラクで周りが喜ぶ活動がある。だが自分ではそのことに意外と気づいていないという場合も多い。会社も同様。「わが社の事業は何か」と聞かれ、いわゆる事業内容を安易に答えてはいけない。

 その活動で「どんな人たちのどんなニーズを満足させているか」を徹底的に問う必要がある。それが事業の分析だ。

 その答えがその会社の強みであり、なすべきこと(使命)だ。つまり、見るべきはやはり「顧客」。「顧客は誰か」という問いにこそ、会社の強みを見つけるヒントが隠されているのである。

 生活用品メーカーが事業を続けられているのはなぜだろう。消費者が支持しているから? 小売店に有利だから? メーカーには2種類の顧客がいるわけだ。どちらのニーズにも注意を払うべきだし、どちらに対しても「なぜ自社と取引してくれるのか」を振り返る必要がある。

強みはいつまでも強みであり続けることはない

「事業の強みは何か」は、苦境ではもちろん、成功しているときこそ見直す必要がある。事業環境は刻々と変化し、成功した事業のあり方さえ、すぐに古くなるからだ。同じ強みが通用し続けるとは限らないし、違った強みが顧客のニーズをとらえることもある。

 会社は「将来の強みは何か」をいつも考えていなければならない。それによって事業の姿は変わるかもしれない。だが、強みを活かし続ける限り、それは成長である。

 重要なのは、使命に合わない活動、顧客に満足を与えなくなった商品、業績に貢献しなくなった工程などは潔く捨てること。それらはもはや、事業の強みではない。より多くの資源を新たな事業(強み)につぎ込み、事業のあり方を柔軟に変化させていく必要がある。

新訂 まんがと図解でわかるドラッカー

ドラッカーのツボ
「顧客はなぜ買ってくれるのか」を問い続け、「強みを活かす」ヒントを探す。

事業の姿をより具体的に考えるために
6つの視点で〝目標〟を考える

何が自社の事業の本質であるかが見えてきたら、次に「事業の目標」を明確にしよう。達成すべき目標があるからこそ、計画が立ち、会社は活動できるのだ。

和訳 「わが社の事業は何か? 何になるのか? 何であるべきか?」を問い、目標を考え抜くのは、知るためではない。動くためだ。

原典 Action rather than knowledge is the purpose of asking “What is our business, what will it be, what should it be?” and of thinking through objectives.
— Management: Tasks, Responsibilities, Practices —

事業の目標は6つの切り口で考える

 事業のあるべき姿を実現するために、何を、どのように、どの程度行えばいいのかを示すのが事業の目標だ。事業の目標は、下した意思決定やそれに伴って行った事業活動が有効かどうかを評価する判断基準になる。

 だから、目標はより具体的なほうが望ましい。それだけ迷いなく前に進むことができるからだ。

 ドラッカーは、目標設定する際の基本的な視点を6つ挙げている。

 それは、①マーケティング、②イノベーション、③経営資源、④生産性、⑤社会的責任、⑥費用としての利益、である。この見開きの図にその考え方を示したので参考にしてほしい。

事業の目標にかかわる6つの分野

①マーケティング
□ 既存の商品に顧客は満足しているか?
□ 既存の商品で不要なものはないか?
□ 既存の市場に新しい商品は求められているか?
□ 新しい商品を提供し、新しい市場は創造できないか?
□ 必要な人に、必要な商品は届いているか?
□ アフターサービスに顧客は満足しているか?
□ 顧客はわが社を信頼しているか?

②イノベーション
□ 商品にイノベーションの余地はないか?
□ 商品の提供方法にイノベーションの余地はないか?
□ 社会の変化に対応して行うべきイノベーションはないか?

③経営資源
□ 適切な時期に物的資源(施設、設備、原材料など)は十分あるか?(物的資源の目標)
□ よい人材を必要なだけ確保しているか?
□ 将来のための資金(=資本)は十分か?

④生産性
□ 物的資源・人材・資金はベストなバランスで活用されているか?
□ 経営資源の使い方は適切か?
□ 一部の改善が全体の生産性を落としていないか?

⑤社会的責任
□ 消費者に誠実な配慮をしているか?
□ 環境に配慮しているか?
□ 事業は社会に貢献しているか?

⑥利益
□ 蓄えは十分か?(内部留保)
□ 現状の利益で企業は存続できるか?
□ そのために必要な利益はどれだけか?

 いずれも重要なのは、「もうけたい」「コストを抑えたい」といった動機から数値を設定しようとしてはならない点だ。

 たとえば「売上げを前年より10%伸ばす」といった慣例的ともいえる目標設定には、必然性がほとんどない。

 ドラッカーが口を酸っぱくしてくり返すように、事業の目標も、あくまで「顧客の満足につながるか」「そのために知恵を絞って努力をしているか」という発想から設定、組織化していく必要がある。

目標を設定する際に必要なバランス感覚

 ただし、6つをバラバラに行っても目標設定は絵に描いた餅で終わってしまう。①いままでの利益を投資すれば実現できそうか、②近い将来の目標と遠い将来の目標の整合性に無理はないか、③優先的に取り組むべき目標はどれか、というバランスを考えながら目標を考える必要がある。すべてを実行できる組織は存在しない。6つの目標を少しずつ進めようとするのが一番マズい。

 こうして目標が立ったら、あとは行動あるのみ。達成までの期限を決める。そしてスケジュールを逆算して計画を立てれば、「いまするべきこと」が見えてくる。実行に移さない目標は、目標とは呼ばない。それはただの〝夢〟だ。

ドラッカーのツボ
目標を立てるのは「行動する」ため。人、モノ、カネ、時間を集中するために優先順位を考えよ。

<第4回に続く>

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