SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」がスタート! 第1回「魔法の箱」

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公開日:2021/7/27

 ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル渋谷龍太。全国各地を駆け巡り、音楽で人の心をつかんでいく彼の日常とは…。ステージを降りた渋谷龍太の生活の中で生まれた心のさざ波をつづる、くすっと笑えてちょっぴり共感できるエッセイ。

 どうにも不思議な気持ちにさせられる事案がたまに発生する。それが実に厄介なのは相手に悪気がないこと、そして発端は自分の善意であるということだ。

 本当の善意とは相手に対して見返りを求めないことである。その点は十二分に承知しているので、そもそも私が持っている権利を相手に遵守して頂く以外のことは求めてはいないのだ。

 それはエレベーターにて。

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 お腹を空かせた私はエレベーターの上三角ボタンを押す。今から食べることになるであろうスープカレー(なんでもいい)を想起してなんだか若干の昂奮状態にある。

 見上げると一番上の階の数字のところに小さな光が点っていた。程なくしてゆっくり一つずつ、点灯する数字を減らしながらエレベーターが下降してきた。「1」に光が点るとやがて静かに扉が開く。

 エレベーターに乗り込んだ私は四階(何階でもいい)のボタンを押した。夕方には終わるはずの仕事は押しに押して、外はもうすっかり暗くなってしまっていた(シチュエーションもどうでもいい)。仕事中に立て続けにおきたイレギュラー、そしてなかなかの空腹に少しだけ気が急いて、「閉」のボタンを幾度も押してしまった。余裕がない行動はどうにもさもしいと反省したところで、エレベーターの外に女の子二人を発見した。もしかしたらエレベーターに乗るのかもしれないと「開」のボタンを押しながら外を覗き込むと、彼女たちは小走りで乗り込んできた。

「ありがとうございます」

 ふウん、最近はこうやってエレベーターの扉を開けて待っていても、我が物顔で乗り込んでくるやつだっているのに立派なものだ。感心した私がどういたしましての代わりに「何階ですか」と訊ねると、ひとりの女の子がおそるおそる既に光が点っている「4」の数字を指差した。目的の階は私と一緒である。その階にテナントは一つしか入っていないため目的のお店もおそらく一緒であろう。私は了解の旨、軽く会釈をしてエレベーターの扉を閉めた。

 上昇するエレベーターは一度も止まらずに四階に辿り着いた。開いた扉を示して先に出るように促してあげると、彼女たちは再びそれぞれに「ありがとうございます」と言った。

 何とも素敵ではないか。きっと筋の通った親御さんをお持ちなのだろう。最近の若者は、なんて言葉を散々耳にしてきたが、私からしたらおじさんおばさんに対して余程ムッとすることだって少なくない。

 果して年齢で人は括れないのだ。

 達観したように頷きながらエレベーターを降りると先に降りた彼女たちがお店の扉を開けたところだった。顔を覗かせた店員の方が言った。

「何名様ですか?」
「二人です」
「はい、お席ご案内しますね、どうぞオ」

 開け放たれた扉からスパイスの香りが漂ってきた。食欲をそそる素晴らしい香りにワクワクし小さく足踏みしていると、程なくして再び店員の方が顔を覗かせて私に言った。

「すみません」
「はい」

 返事をした私に、店員の方は困ったように眉毛をハの字にして言った。

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渋谷龍太●1987年5月27日生まれ。SUPER BEAVERのボーカル。2005年にバンド結成、2009年メジャーデビュー。2011年レーベルを離れ、インディーズで活動を開始し、年間100本のライブ活動をスタート。大型フェスにも参加し、2018年には日本武道館単独公演を開催。2019年に兵庫・ワールド記念ホールと2020年1月には東京・国立代々木競技場第一体育館で初のアリーナ単独公演を開催。チケットを即日ソールドアウトさせる。結成15周年を迎えた2020年4月にメジャー再契約。2021年、“愛しい人”がドラマ『あのときキスしておけば』(テレビ朝日系)の主題歌に、新曲“名前を呼ぶよ”が映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。自身最大キャパとなるアリーナツアー「SUPER BEAVER都会のラクダSP〜愛の大砲、二夜連続〜」を10/9(土)、10(日)に日本ガイシホール、10/20(水)、21(木)に大阪城ホール、11/6(土)、7(日)にさいたまスーパーアリーナで開催する。