「日大三高の強さを見た」コーチの心を動かした、日本代表に選ばれた3名に共通する行動/「一生懸命」の教え方

スポーツ・科学

公開日:2021/8/26

我慢強さがない、打たれ弱い、すぐにあきらめる…。そんな「今どきの子ども」との向き合い方に、悩んでいませんか?

甲子園の常連校・日大三高を率いる名将・小倉全由(まさよし)監督が実践するのは、選手に「熱く」「一生懸命」を説く指導。その根底にあるのは、「人を育てる」ことでした。
個を活かし、メンバーの心をひとつにまとめあげ、強力な集団に変えていく方法とは――?すべての指導者に知ってほしい、本当のリーダーのあり方を教えます。

※本作品は小倉全由著の書籍『「一生懸命」の教え方 日大三高・小倉流「人を伸ばす」シンプルなルール』から一部抜粋・編集しました

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「一生懸命」の教え方
『「一生懸命」の教え方 日大三高・小倉流「人を伸ばす」シンプルなルール』(小倉全由/日本実業出版社)

たとえ全国制覇をしても、謙虚に振る舞う心を育てる

 優勝したからこそ、驕らず謙虚に振る舞い、誰よりも率先して練習に励む―。口で言うのは簡単ですが、容易にできることではありません。

 優勝したとたんに、自分を大きく見せたがるチームもありますが、決してほめられることではありません。なぜなら、それを見ている周囲の人や後輩たちに対して悪い影響を与えてしまうことがあるからです。こうした選手に育ててしまうのは、選手自身の責任ではなく、指導者である大人の責任であると私は考えています。

 

優勝メンバーが誰よりも練習していた

「自分に厳しく、他人に優しく」

 これは、私が合宿所生活を送るなかで選手全員に伝えていることです。この言葉を実践してくれたのが、2011年夏の全国優勝のメンバーであり、大会後の第9回AAAアジア野球選手権大会の日本代表メンバーに選ばれた、畔上翔(現・Honda 鈴鹿)、横尾俊建(現・楽天)、吉永健太朗の3人でした。

 畔上と横尾に共通していたのは、誰よりも率先して練習することでした。韓国に勝って優勝を決めたあと、当時の日本代表の監督だった渡辺元智さん(当時は横浜監督)、コーチだった山下智茂さん(当時は星稜監督)、斎藤智也さん(聖光学院監督)、森士さん(浦和学院監督)らが口をそろえて、「小倉先生、彼ら3人から三高の強さを見せてもらいました」と言ってくれたのです。「どういうことですか?」と私がお聞きしたら、大会期間中にこんなことがあったそうです。

 

 大会を勝ち進んでいくなか、畔上と横尾の2人が、渡辺さんに「もっとバッティング練習をやりたいんです」と言ってきたというのです。

 甲子園大会、そしてアジア選手権大会期間中の選手の練習は、「鍛え込む」のではなく、「調整すること」に重点を置いていたため、打ち込みをする時間が著しく不足していたのです。そこで、「今、遮二無二打ち込む時間がほしい」と考え、渡辺さんに訴えてきたというわけです。

 指導者の立場からすれば、「練習がしたいんです」という選手の申し出を拒否する理由はありません。そこまで練習したいのなら、ということで、渡辺さんが借りてこられた社会人チームの室内練習場を使い、代表の選手全員が参加する形でバッティング練習が始まったそうです。

 そこで最後まで黙々とバットを振っていたのが、畔上と横尾の2人でした。

「日本代表に選ばれた選手で、ここまで激しい練習をするなんて、通常は考えられないですよ。ほかの選手たちのいいお手本になってくれたので、私も助かりました」

 渡辺さんが感心し切った表情で話してくれたのが、今でも印象に残っています。

 

選手が率先して動いていく言葉

 また、日本代表の試合では、甲子園の優勝投手となった吉永については、「甲子園の連投の疲れを考慮して、決勝戦でしか投げさせるつもりがない」と渡辺さんははじめから決めていたそうです。吉永はそのようななか、1回戦から準決勝まで、試合中のバット引きなど、裏方の仕事を何食わぬ顔で平然とやっていたというのです。渡辺さんはこう言いました。

「甲子園の優勝投手なら、『なんで自分が裏方の仕事をやらなくちゃいけないんだ』と顔に出してもおかしくないところだと思いましたが、吉永君はそうしたところがいっさいなかった。それどころか、誰かから言われたからではなく、自分の判断で率先して裏方の仕事をやってくれたんです。ですから、私はほかの選手全員に向かって、『甲子園の優勝投手が裏方の仕事を一生懸命やってくれているんだから、みんなはプレーで返さないといけないぞ』と檄を飛ばしました。大会期間中、三高の選手の存在がこれほどありがたいことはなかったんですよ」

 

 そのことを畔上、横尾、吉永の3人に伝えたら笑顔で喜んでくれたのですが、畔上は「当然のことをしただけです」と平然としていました。

「監督に言われたから練習をやるなんていう考えでいるくらいなら、最初からやらなくてもいいんだぞ。その代わり、日頃から自分の意思で率先して練習を積み重ねている選手と比べたら、3か月、半年、1年先になってから必ず大きな差となって現れるからな」

 私は選手たちにそう言い続けてきましたが、その言葉の真意を彼らはつかみ取ってくれたのでしょう。

「練習をやるか、やらないか」を決めるのは最終的には選手自身の判断ですが、自分から率先して練習しなければ、最高の結果を生み出すことはできません。

 畔上、横尾、吉永の3人は、自分の判断で率先して行なってきたに過ぎませんが、こうした自主的に行動する心を育ませることこそが、高校野球では絶対に必要なことであると、私は信じています。

小倉流ルール 自主的に行動する心を育むのは、謙虚な姿勢

<続きは本書でお楽しみください>

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