SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第2回「そういうもんなんです」

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公開日:2021/8/27

 ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル渋谷龍太。全国各地を駆け巡り、音楽で人の心をつかんでいく彼の日常とは…。ステージを降りた渋谷龍太の生活の中で生まれた心のさざ波をつづる、くすっと笑えてちょっぴり共感できるエッセイ。

 以前友人と乾杯していた折に、それぞれの仕事の話になった。

 まだ2杯目だというにも拘らず目の前で茹で蛸のように赤くなっている彼は、同じ居酒屋で共にアルバイトをしていた仲間だ。20代前半から30歳を目前にするまでの長い間、我々は一緒に働いた。

 幾つかの仕事を経験したそのノウハウを活かして(本当のところ活きているのかは謎)、マーケターという耳馴染みの少ない職についた彼は、仕事の話題と女の子の話題のその隙間で、不意に私に訊いた。

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「で、お前、年収幾らもらってんの」
 私は飲んでいたビールを吹き出しそうになった。「いや、お前さ」
「ん?」
「いくらなんでも、そういう質問は失礼だろ」
「そうかそうか、ごめん、あはは」
「あはは」

 我々はその後しばらく飲んで、割かし健全な時間に解散した。友人は終電に乗るため駅に、私は酔いを覚ますために家路を歩いて帰った。

 久しぶりの会合であったために話に花が咲いた。学生時代に出会っていてもきっと仲良くはならなかった類の男だが、初めの段階からどういうわけだか打ち解けることが出来た。それからバイト先で長い時間を共有することになり、互いに仕事でご飯を食べていけるようになった今でも交流があるというのは不思議なものだ。

 偶然にも交わった人生がそれぞれに一生懸命歩いている今を、なかなかに面白いものだと思えた素敵な夜だった。

 車の通りが少なくなった明治通りを歩く。素敵な時間の余韻は夜風に吹かれて、私の思考を徐々に他のところに移していった。

「お前、年収幾らもらってんの」

 先ほどの会話が、どうにも気になる。

 彼はあの時、然もありなんという様子で私に聞いた。正直、あけすけによくもそんなことが言えたものだと目の前の男に対して思ったし、デリカシーを欠いたやつだ、とさえ思った。私は口に含んだビールの逆流を制して、これがまともな社会人です、といった具合に姿勢を正して返答したのであった。

「いくらなんでも、そういう質問は失礼だろ」

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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