相手に「変わってほしい」と思ってしまう/大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした③

文芸・カルチャー

公開日:2021/9/6

韓国国内著者累計55万部突破、「BTSおすすめの作家」としても話題のクルベウ氏による『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』(ダイヤモンド社)。
日本でも6万部を超え、「疲れているとき、つらいときに読みたい」「優しい言葉に癒される」と話題になっています。
本書から、いま、大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをしているあなたに届けたい5編を、全5回で紹介します。

大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした
『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』(クルベウ:著、藤田麗子:訳/ダイヤモンド社)

相手に「変わってほしい」と思ってしまう

1組のカップルがいた。
ふたりはとにかくケンカが多かった。
うまくいっていた頃はこれ以上ないほど仲がよかったが、
ささいなことでしょっちゅう言い争っているうちに、
好きな気持ちはどんどん不安に変わり、
これからずっと一緒にいてもいいのだろうかという思いが
芽生え始めた。

ある日、ふたりはケンカに疲れて
自分たちはなぜこんなにぶつかり合ってしまうのか、
理由を考えてみた。

ふたりはケンカのたびに、
どちらが正しいのか間違っているのかを追及して、
それぞれが自分の主張だけを前面に押し出していた。
お互いに、自分だけが正しいと声高に訴えていたのだ。

自分の価値観だけを正しいと考え、
相手が自分の望みどおりに変わってほしいという
気持ちのせいで、虚(むな)しさが増していた。

相手が自分のために変わるのは
当然のことだと考えていた。

相手が変わらないせいで、
自分の人生がつらくなり、
相手を憎んで、小さな過ちにすら
大きな怒りを感じるようになったのだ。

そこでふたりは3つの約束をした。

1つ目は、正しいか正しくないかを問い詰めず、
お互いを優しく包み込むこと。

2つ目は、相手に何も望まないこと。

3つ目は、相手の何かが原因で自分があまりにもつらいときは、
心からお願いしてみること。
それでも相手が自分の意見を聞き入れないなら、
変えようとせずに理解すること。
理解できないときは、争うのではなく別れること。

その後、このカップルは
4年の歳月を経て結婚することになり、
今では2人の子どもの親になった。

・・・

人が人を好きになると、欲が生まれる。
好きだからこそ、相手が自分の望む姿になってほしいと
願う気持ちが大きくなる。
それはただの欲なのに、
いつしかそれを愛だと勘違いすることになる。

欲は結局、相手を疲れさせて傷つける。
相手に対する理解が消えて
自分の意見と立場のほうが重要になる。
相手の気持ちを思いやるのではなく
ひとりよがりな欲を持つことになる。

自分では相手を気遣っていると思っていても、
相手がそう感じないのであれば、
それは自分のための配慮にすぎない。

もちろん完璧な人はいない。

誰にでも問題はあるし、不足している点はある。
だからお互いが歩み寄るべきだが、心が欲でいっぱいだと
相手に合わせることが難しくなる。
相手を自分に合わせようとして
よけいにイライラしてしまう。

お互いに欲を捨てて、
すり合わせていく努力をしよう。
誰かのためではなく、
自分の人生における愛の時間を傷だらけにせず、
より美しい時間にしていくために。

このカップルの3つの約束は
もちろん難しいことだが、実に賢明な方法だと思った。

愛しているなら、
愛を守るためにお互いに多くの努力が必要だ。
努力を続けるのは大変で難しい。
それでも一緒にいたいと思えるのは、
相手を心から愛しているという証拠ではないだろうか。

愛とは所有することではない。
気分がよくなる甘い香りのようなものだ。

大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした
イラスト:福田利之

<第4回に続く>

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