汽水域／小林私「私事ですが、」

　今や気付けば来年1月で23歳と、世間一般的にはそれなりに大人で、まだまだそれなりに子どもといった曖昧な状態だ。

ところで、川から海になるその曖昧な場所には「汽水域」という名前が付けられている。

そこは川と呼ぶには塩辛く、海と呼ぶには味気のない”汽水”が占めている。

塩分濃度によって決められるものらしいが、その定義もまた異なる事例が多く、曖昧らしい。

まるで子どもと大人の境目のようだ。誰に決められるわけでもなく、しかしその場その場の何かによって決まる。

 

　22年間生きていて、他人からの評価としては周囲に比べて大人びている方だと位置付けられているし、自分でも「ああ、周りの彼ら彼女らは実に落ち着きがないな」と思うことが多い。しかしいつだってそれが良く作用するわけではない。

落ち着きのある(とされた)人間は、比べてそうでない人間をどうにかしなければならない。いや、そうしないと自分が損をする。

それは眼前の起こされた問題によってか、後の評価か、いずれにせよ先んじて大人化された側がまず第一に損をする。

子どもの責任を取るべきは大人だからだ。

自分は知らぬ間に汽水域を抜け、海になったのだろうか。

 

　自らを自らで捉えると、いやまだまだ汽水域、川とされて然るべき証拠が無数に出てくる。

なんだったら大人であるとされることに高揚することもある、これは実に子ども的だ。
早く大人になりたいんだ、と心の中で井端珠里が歌っている。

 

　ただ背伸びをして手を突っ込んだポケットにはファンタジーがあるだろうか。

 

　最近ではますます色んな方と話す機会が増え、「落ち着いてる」「現実的」「冷静である」との評価を沢山頂く。

褒め言葉のように「狂っている」と評されるアーティストは自分は好きになれないし、作家以前に人としてやれていない人間とは距離を置きたいとも思う。社会生物としての自分を、誇っている。

作家でありながら人間であること、どちらも決して軽んじてはいけないことを伝えようと、今アーティストをやっている。人としての暮らしの延長線上に作品はあるのだから

だからまあ嬉しくはある。嬉しくはあるのだ。

 

　ただ、小さい頃からファンタジーもドキュメンタリーも好きになれなかった。

現実の度量衡を創作で見たくはなく、しかし作られすぎた世界は拒絶されているようだから。

今でも、没入出来るフィクションの世界観を頭の中に持ち込んでは、その世界で生きることを想像しながらでなければ一人では到底眠れない。
そこに現実世界の自分は居らず、その世界の誰かの視点で生きている。その世界の”自分”に入り込んで、眠るのだ。

日々インターネットが好きと発信しつつ、本当に何も手につかない日はパソコンもスマホも開かない。

漫画や小説や、その他何でもいい創作の世界に心が削れるまで身を投じる。

その間、他のことは全部忘れかける。

主人公らが嫌な目にあっている時なんかは自分まで本当の本当に落ち込み、焦る。

そういう創作の情報にまで疲れ果てた頃ようやく、仕方なく現実を見るのだ。

曲を書く時も、誰かの曲を聞いておきながら満足出来ない部分を想像して、
それを現実に引っ張り出しているだけなのだ。

 

　俺は現実が本当は好きでないのかもしれない、想像と現実の汽水域に今もいる。