【上白石萌音 初エッセイ集を試し読み!】揃える/上白石萌音『いろいろ』②

文芸・カルチャー

更新日:2021/9/29

いろいろ

著:
出版社:
NHK出版
発売日:

上白石萌音さんの初エッセイ集『いろいろ』。「本が好き」という上白石さんによる、ありのままの思いがつづられた書き下ろしの50篇におよぶエッセイ。今回は、本書から「揃える」をご紹介。さらに、連載最後ではダ・ヴィンチニュースのためだけに上白石さんが書き下ろしたエッセイも特別掲載! 俳優・歌手・ナレーター、そして文筆業と、活動の幅を広げる彼女の「今」は必見です。

いろいろ
『いろいろ』(上白石萌音/NHK出版)

上白石萌音『いろいろ』
©山本あゆみ

揃える

 指先が綺麗な人には、男女問わず惹かれる。わたしは指フェチである。

 自覚するきっかけは何だっただろうと遡ったら舞妓さんだった。映画『舞妓はレディ』の撮影当時、京都で舞妓さんにお会いする機会がとても多かったのだけれど、みなさん本当に手元が綺麗なのだ。タクシーに同乗した時、手提げのがま口をパチンと閉めるその揃った指先に、不覚にもドキッとしたことを覚えている。以来、他人の指先を強烈に意識してしまう。

 それより前にも思い当たる節があった。中学の時クラスで人気のあったYくん。静かで照れ屋で男子からも好かれる人だった。みんなが言うように顔立ちも端整だし足も速いし頭もいいのだけど、わたしは密かに指が綺麗だなあと思っていた。細くて長くて品のある指。おまけに字も綺麗。おー、今思えばとんでもないハイスペック男子だったわけだ。

 もちろん爪も大事。わたしのなかでの歴代ベストは、かかりつけのお医者様の爪だ。テキパキしていて優しいその女性は、長くて丸い、満点の爪をしている。それでぱちぱちとリズミカルにキーボードを叩くので、もう無敵だと思う。

 わたしも自分の指先に意識を注ぎたくて、そのためによく指輪をつける。主に家のなかで。仕事柄つけ外しが面倒だし、あと指輪って何かとあらぬ誤解を生んでしまいがちなので注意が必要である。

 帰宅して、手を洗って、部屋着に着替えて、指輪をつける。一般的には逆なのかもしれない。でもわたしにとって指輪は、憧れの仕草を身につけるための訓練器具なのだ。

 洗濯物を畳んだり、スマホやパソコンを触ったり、本を読んだり。なんてことない仕草のなかで指輪が目に入ると、わたしのなかの「理想の指先」が脳裏をよぎって、指がシャキッと揃う。

 なんてパソコンで打っている今、急に主役になったわたしの指たちは緊張してデタラメな方向に動き、タイプミスがひどい。まだまだ修業あるのみだ。

<第3回に続く>

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