SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第3回「触りたくないもの」

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公開日:2021/9/27

 用を足している最中、予期することの出来なかった揺れにたわむ身体。転倒を避けるべく反射的にバーを掴んだ手のそれまでの所在は言わずもがな。即ちバーからバーへ、だ。

 リスクマネジメントとして、周到な人間であれば用を足す前からいずれかの手でバー(新幹線の方)を掴んでいることも考えられるが、それにしたって開始の段階に至るまでには絶対に両手を使う。いずれにせよ新幹線の方ではないバーにノータッチで開始することは不可能なのだ。

 じゃア、乗車中のトイレくらい我慢したらどうだ? という意見にも異存はない。痛い程よくわかる。ただ私はコーヒーが好きなのだ。移動の時になくてはならないものの一つである。そしてそんな私は起き抜けで馬鹿みたいに水を飲む習慣がある。だから移動中一度は絶対に尿意を催してしまうのだ。わかってくださっているとは思うが念の為、私は半端な覚悟でコーヒーを買っているわけではない。いつだって腹を括って利尿作用の高いコーヒーを買っているのだ。それだけは覚えておいて欲しい。

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 そんな男だからこそ、あの半個室を頻繁に利用させて頂いている男だからこそこの議題、見解なのだ。

 毎度やってくる尿意。その度に奴と私とのやりとりのことを考える。

「よオ、今日は揺れないといいね」催した尿意に赴いた男性専用半個室。小便器の上に堂々と鎮座してこのバーは半笑いで語りかける。

「俺がどういうやつだか、お前も本当は知ってるんだろ」ちなみにこのバーのカラクリに気がついている人間は何も私だけではないはずだ。それこそ大勢いると思う。

「危ないぞ。無理するなよ。さっきのやつみたいに俺が救ってやるからよ」バーの声を無視して用を足す、小さな揺れに冷や汗が頬を伝う。

「ほら、助けてやるよオ。手なんて洗わなくていいんだよ、そのまま掴めよ」用を足している間、バーは絶えず囁き続ける。

「おっ、なんだア、あと少しだったね」ガコンと揺れる車体、危うく手を伸ばしそうになるも最後まで持ち堪え無事に用を足し終える。バーは最後に言う。

「嫌でもお前は俺に触る。近い未来の話だぜ。また待ってるよ」

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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