SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第3回「触りたくないもの」

エンタメ

公開日:2021/9/27

 ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル渋谷龍太。全国各地を駆け巡り、音楽で人の心をつかんでいく彼の日常とは…。ステージを降りた渋谷龍太の生活の中で生まれた心のさざ波をつづる、くすっと笑えてちょっぴり共感できるエッセイ。

 どうにもこれは、と思うものがある。それはある人にとっては虫であったり、ある人にとっては人であったり。嫌悪の理由も千差万別で、わかりやすいものから生理的に無理といった類の理屈では説明が付きづらいものまで様々。

 私にももちろんある。私の理由は至極単純で汚いと思うからだ。

 それは、清潔が猛スピードで走っているようなあの新幹線の中にある。

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 女性の方には馴染みがないかもしれないが新幹線の御手洗いは個室の他に、人が一人立つだけの猶予と小便器だけがしつらえてある男性専用の半個室がある。どうして半個室という言い方をするのかというと、扉の上部がクリアになっているからだ。扉自体には鍵がなく、使用している誰かがいるかどうかは扉上部のアクリル越しに誰かの背中が見えるかどうかで判断する。電話ボックスの中に電話ではなく小便器があると思って頂けたら話が早いかもしれない。

 そしてこの場所には普通の御手洗いにはないものが一つ設置されている。これこそが私がこの上なく触りたくないものだ。

 それはバーである。

 座席、廊下、そして御手洗い。目的地の往復ごとに清掃が入る為、常に清潔に保たれている。ただそもそもそういう問題ではなく、この用途に私は問題を感じている。

 これすなわち、用を足している間に無防備になった男性諸君、揺れたらここに捕まりたまえよ、という旨設置された手摺りである。身長差はそれぞれだが大体へそより上、胸より下あたり、小便器の上に横向きに備え付けてある。

 安全面を考えると確かにありがたい。静かに走る新幹線といえど、急角度のカーブに差し掛かれば車体は傾く。その頃合いで丁度真っ最中だった場合、中断できなかった小便をあたりに撒き散らしながら転倒する恐れだってある。その局面を想像して頂ければ如何に危険かわかっていただけると思うが、それを未然に防ぐためにこのバーは存在している。もちろんバリアフリーの点においても必要なものなのかもしれない。

 数々の男たちのピンチを救ってきたであろうこのバー。大事故を未然に防いできた男たちのヒーロー。

 ただ、このバーを掴む直前まで、その手は一体何を掴んでいたのか。

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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