ラジオは好きだが才能がない。無色透明な個性でどんな色にも染まればいい/アフタートーク

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公開日:2021/10/10

アフタートーク

著:
出版社:
KADOKAWA
発売日:

 才能がない。社会になじめない。暗い。無駄に背が高い。服がダサい。腐っていたぼくに残るのは、ラジオへの情熱と無色透明の個性――。

「オードリーのオールナイトニッポン」「星野源のオールナイトニッポン」など、数々の名番組に関わった、オールナイトニッポン元チーフディレクター・石井玄(ひかる)さんの初エッセイ『アフタートーク』。 「ラジオ制作や会社員にまつわる仕事論」「学生時代にラジオに救われてから業界を目指すまでの道のり」など、ラジオへの情熱と志を余すところなくつづった10年間の集大成。ラジオファンのみならず、モチベーションを高めたい社会人、これから働く学生にも読んでもらいたい作品。

※本作品は石井玄著の『アフタートーク』から一部抜粋・編集しました。

アフタートーク
『アフタートーク』(石井玄/KADOKAWA)

無色透明

 ぼくには才能がない。

 世の中に才能のある人は山ほどいる。どうしたらそんな発想が出来るのか、どうしたらそんな面白いことが思いつくのか。ぼくには想像もつかず自分の無力さに落ち込む。

 例えば、才能あるラジオディレクター。面白い企画を次々と生んでいく人、音楽的センスに優れている人、その人自体が面白くパーソナリティに面白いことを喋らせるディレクションが出来る人、パーソナリティやスタッフから信頼される人柄でチームをまとめ楽しく番組を作れる人、作家と同等かそれ以上に面白い台本を書ける人、編集が天才的にうまくてカッコいい音の素材を作れる人。

 ぼくはAD時代、嫌というほど才能あるディレクターの下で仕事をしてきた。どんなに頑張っても、自分には才能も個性もないと痛感させられる。「こんなことも出来ないのか」と、怒られてばかりの毎日だった。

 それどころか、暗い。無駄に背が高い。服がダサい。姿勢が悪い。声が小さい。センスがない。魅力的なところはひとつもないくせに、劣等感は山ほどある。

 人に誇れるものがないぼくにあるのは、「ラジオが好き」という一点のみだった。

 

 天才じゃない自分に出来ることとは?

 それは、仕事が出来る人をマネすること。観察してどんどん取り入れて、自分の血肉とする。天才が10分でやってしまうことでも、何時間もかければ凡人にだって出来るはずだ。凡庸な発想だが、そこにすがる以外、当時のぼくには何もなかった。

「好きこそものの上手なれ」という言葉があるように、ラジオへの熱量は持っているのだから、人の10倍、20倍努力すればいいのだ。

「お前は才能もセンスもないんだから、やるしかないんだよ」

「誰よりもラジオが好きなんだろ。他に楽しいことなんてないだろう」

「どうせ何にも出来ないんだし、しょうもない人間なんだから、やれよ」

 自分に言い聞かせる。才能がないから努力する。なぜならラジオが好きだから。

 

 ディレクターにもタイプがある。以下、ぼくの私見で分類したディレクターのタイプです。

「クリエイター型」…企画を自分で考えて細部まで自分で練り、1から10まで一人で面白い番組を作る人

「人たらし型」…人柄の良さでパーソナリティに愛され、優秀なスタッフにも恵まれ、自然と面白い番組になっていく人

「センス型」…圧倒的センスで自分の世界観を作り上げ、そのセンスがリスナーからも受け入れられて、カッコよさと面白さも兼ね備えた番組を作る人

「計算型」…世の中にウケるものを見据え、確たる狙いを持って番組を構築してヒット番組を作る人

「請け負い型」…プロデューサーや放送局の発注した無理難題を忠実に形にし、クオリティの高い番組にする人

 

 他にもタイプはあるだろうし、複数の能力を兼ね備えている人もいる。番組を聴いていて、ディレクターのこだわりが垣間見えた(聴こえた)とき、ディレクターの存在価値を実感する。

 ラジオディレクターに限らず、どの仕事においてもタイプわけは出来ると思う。センスがある人や、人望がある人は、タイプは違っていても仕事が出来る。現役のディレクターの方が見たら「簡単にわけられるもんじゃねーよ」と言いそうだが、勝手にタイプわけしただけなので、ご容赦いただきたい。

 タイプわけをしたのには理由がある。自分は、どのタイプに当てはまるのか分析し、目指すべきところを模索していたのだ。しかし、ぼくはどれにも当てはまらなかった。どの能力もなかったのだ。面白いことを思いつくわけでもないし、人から好かれているわけでもないし、センスもなければ計算も出来ないし、請け負った仕事も満足に出来ない。ラジオディレクターの才能がないのだ。

 1994年にスーパーファミコン用ゲームソフトとして発売された、大人気シリーズ「実況パワフルプロ野球」、通称「パワプロ」。「パワプロ」の能力(A〜G)で言えば、パワーも走力も守備力も全能力最低ランクGの状態。それだけでなく、特殊能力で、サボり癖、弱気もついている。ちなみに、「パワプロ」で肩力Gだとセカンドからファーストに投げても届かないし、パワーがGだとホームランは打てない。

 ラジオディレクターに必要な能力で言うと、クリエイティブ、コミュニケーション、編集、音楽、アイデア、計算、面白さ、すべてG。「パワプロ」の選手を育成する「サクセス」モードの初期選手だったらリセットして作り直すところだが、自分の人生は作り直すことなど出来ない。

 

 そこで、ぼくが考えたのは「全部やる」だ。

 どの能力もないのであれば逆にやるべきことは簡単だ。バカな考え方だが、得意なものがなければ全能力を上げればいい。パワプロなら全能力が一発で上がる手術をダイジョーブ博士にお願いして、一発逆転の賭けに出たいところだが、そんなものは現実に存在しない。コツコツと積み上げていくしかない。手術が成功するとオールAも夢ではないが、失敗するとリセットが待っている。結果が出るとき、ドキドキしたな。ダイジョーブ博士が分からない人は検索してください。

 ラッキーだったのは、他の若いADが少なかったことだ。おかげでぼくはニッポン放送に出入りする様々なディレクターと仕事をする機会に恵まれ、それぞれのディレクターの優れたところを、毎日毎時間毎秒盗んで学んだ。当時出入りしていたすべてのディレクターと何らかの形で仕事をさせていただいた。どんな雑用からでさえも吸収出来ると考え、依頼された仕事はすべて引き受けた。

 

 難しく考えずにひたすらに仕事した結果、ぼくはどのディレクターにも当てはまらないタイプになった。突出した能力がないからどの能力も平均的に伸びていく。もちろんどの能力も、才能ある人よりは劣る。苦手なものはないが、同時に得意なものもない、いいのか悪いのかわからない能力値。「パワプロ」ならほぼベンチに置かれている選手だ。だが、ことラジオディレクターとしては重宝された。どんな番組でも平均点を出すからだ。

 あえてタイプに当てはめるとするならば、「無色透明型」である。

 無色透明ということは、自分の個性が存在しないこと。番組で言えば、才能あるパーソナリティやスタッフの能力を最大限活かすことに注力出来る。才能のないぼくの個性など番組においては必要ないのだから、能力の高い人の力を引き出せばいい。

 無色なぼくの利点は、周りの優秀な人たちの色に染まれること。逆に、パーソナリティやスタッフに足りない部分があれば、それを補完することが自分の役割となった。みんなが苦手な部分をぼくがやることによって、その分、才能のある人には得意なことに時間を使ってもらえる。

 何も出来ない。けど、全部出来る。これがぼくの能力になった。

 担当する番組が増えていくにつれ、この能力が役立った。自分のアイデアなど表現出来なくていい。自分の個性を出すことは、それぞれの番組の色が同じになってしまうことも意味する。自分が無色透明であることによって、それぞれの番組の個性をもっと出すことにもつながった。

 担当していた番組に、ぼくの色の番組はひとつもない。無色透明なぼくが、誰かの色に染まることで、その色をもっと濃くすることが出来る。もしかしたら聴いてくれているリスナーの色にも染まれていたのかもしれない。

 

「じゃあ、才能がない方が良かったか?」と聞かれたら、そんなことは全くもってない。すべて結果的にうまくいっただけ。

 いつだってずっと、天才に憧れている。

<第3回に続く>

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