ラジオ番組は誰のものであるか? ラジオディレクターの最大のミッションとは?/アフタートーク

エンタメ

公開日:2021/10/11

アフタートーク

著:
出版社:
KADOKAWA
発売日:

 才能がない。社会になじめない。暗い。無駄に背が高い。服がダサい。腐っていたぼくに残るのは、ラジオへの情熱と無色透明の個性――。

「オードリーのオールナイトニッポン」「星野源のオールナイトニッポン」など、数々の名番組に関わった、オールナイトニッポン元チーフディレクター・石井玄(ひかる)さんの初エッセイ『アフタートーク』。 「ラジオ制作や会社員にまつわる仕事論」「学生時代にラジオに救われてから業界を目指すまでの道のり」など、ラジオへの情熱と志を余すところなくつづった10年間の集大成。ラジオファンのみならず、モチベーションを高めたい社会人、これから働く学生にも読んでもらいたい作品。

※本作品は石井玄著の『アフタートーク』から一部抜粋・編集しました。

アフタートーク
『アフタートーク』(石井玄/KADOKAWA)

ラジオディレクターの仕事

「ラジオディレクターの仕事って何ですか?」

 若いディレクターや学生にディレクター講座をする機会がたまにある。その度にこの質問をされて答えに窮する。一般的にディレクターは演出家なのだが、ラジオの演出の役割は曖昧で、何をもって演出とするのかが難しい。

 もちろん、実際にどういうことをやっているかを説明することは出来る。

 番組の企画を考え、スタッフと打合せをし、選曲し、番組全体の構成を考え、キューシート(進行表)を作成し、それを基に構成作家が書いた台本を手直しし、パーソナリティと打合せし、本番に臨む。本番中は、喋り出し、曲やBGM、SE(効果音)などの音素材の流れるタイミング、CMのタイミングを指示するために、パーソナリティやスタッフにキュー(合図)を出す。

 生放送であれば、決められた放送時間に収まるように時間を計算して調整する。想定していた内容に変更があれば、パーソナリティとスタッフに指示をして、放送が滞りなく進むようにする。

 収録番組であれば、収録したあと、番組が放送時間に収まるように編集をする。準備段階では、ゲストのブッキングや、営業企画の調整を行うこともあるし、出演者の事務所とギャラの交渉をすることもあれば、お茶を買いに行ったり、経費の伝票を処理したり、SNSで番組の告知をしたり、とにかく何でもやる。

 しかし、「これが演出か」と言われると自信を持ってそうだと言いにくい。喋る内容は、最終的にパーソナリティが決めているし、内容については構成作家の書く台本が最も重要だ。リスナーからのメールを選んだりすることも、パーソナリティや作家が行うことが多い(ちなみに「放送作家」は職業名、「構成作家」は番組内での役割の名前と言われています)。

「え、じゃあ、ディレクターって何もやってないじゃん!」と言われると、「まあ、そうですね」と言わざるを得ない。正直、ディレクターが何も考えなくても番組を進行させることは可能だ。

 クリエイティブな仕事だと思われることが多いが、実際には調整や各所ヘの連絡、事務作業が圧倒的に多く、主に番組を円滑に進める制作進行的な役割を担っている。番組によっても与えられる役割が違うし、やる仕事も変わってくる。チームにいるスタッフ、担当するパーソナリティによっても、変わってくる。構成作家のいない番組ではディレクターが台本を書くこともあるし、パーソナリティによっては喋る内容をディレクターが考えることもあるので、何とも言えない。

 

 前の話で述べた通り、ぼくは相手に合わせる「無色透明型」のディレクターだ。相手に合わせるので、組む相手によって仕事も変わるから、説明するのが難しい。

「全部やってるし、何もやってない」という、「答えになっていない答え」でいつもその場を凌いでいたが、言った瞬間に相手が怪訝な顔をして気まずい空気になる。

 で、今回も例によって、この本の担当編集者の松尾さんから「ラジオディレクターの仕事について書いてください」とリクエストされました。まあ、そらそうでしょう。ラジオディレクターやってた奴の本なんだから避けて通れないでしょうね。打合せで、「全部やってるし、何もやってないです」と言ったら、案の定、「は?何言ってんの? 本を舐めてんのかコイツ!」という顔をされた。ごめんなさい。

 

 そこで改めて、自分が思う「ディレクターの仕事」について書きたいと思います。先に言っておきますが、人によって考えは違います。他のディレクターの方がこの本を読んで、「全然ちげーよ。勝手なこと言うな」と思っても、ぼくに伝えないようにお願いします。SNSで「石井とかいうよくわからない奴が勝手なこと言ってんだよ」とか触れ回るのもやめましょう。わかっていますから。

 諸先輩方への言い訳をたくさん書いたところで、本題に入ります。

 

「ラジオディレクターの仕事は何であるか」という話をする前に「ラジオ番組は誰のものであるか?」ということを考えてみる。

「ディレクターのものだ」「パーソナリティのものだ」「スポンサーのものだ」と言う人もいれば、「放送局のものだ」「構成作家のものだ」「プロデューサーのものだ」と言う人までいて、立場や状況によって色んな意見がある。だが、答えは凄く簡単で、当たり前であるが故に、忘れてしまう人が多い。

 

「ラジオ番組は聴いてくれているリスナーのもの」

 

 ここは異論ないかと。異論ある方、戦います。これについては言ってきても良いです。「番組は俺のモノだ!」と言っているディレクターがいたら、その人に面白い番組は作れないと思う。実際に会ったことはないけれど。

 番組はリスナーのものである、と考えると進むべき道は見えてくる。リスナーのために、リスナーを楽しませることが番組の使命だ。逆に、リスナーへの一番の裏切りとは何か?

 ぼくが思う一番の背信行為は「番組が終わること」だ。リスナーだったころから、番組が終わること以上にショックなことはなかった。好きな番組であればあるほど、その絶望感は計り知れない。そう考えていくと、ラジオディレクターの最大のミッションは「番組を終わらせないこと」だという答えに行き着く。

 番組終了については、様々な要因が絡むので、一概に誰が終わらせたかとは言えない。番組を終わらせたいと思う人もいない。ただ、そうせざるを得ない立場の人もいる。そんな状況の中、番組を終わらせないために様々な行動を起こせるのは、番組の一番の味方であるディレクターしかいない。

 

 終わらせないために、少しでも番組を面白くするための行動をする。当たり前のことだ。しかしながら、ただ面白いだけでは番組は終わることがある。

 聴取率が上がるように工夫をし、スポンサーが喜んでくれる企画を実行し、パーソナリティやスタッフのモチベーションが下がらないように行動し、イベント開催やグッズ販売で利益を生み出して、放送局にとって重要な番組であるというアピールをしながら、リスナーが楽しんでくれる放送を毎回行う。

 だが、それでも番組が終わってしまうことがある。その責任はディレクターにあります。ここは、異論を認めます。「そんなことはない」と言う人もいるでしょう。色んな要因があるかもしれないが最終的な責任はディレクターにある。少なくとも、ぼくはそう思って仕事をしてきたし、そうならないように諦めずに、どんなときも全力で取り組んできた。

 それでも終わってしまった番組のリスナーには、本当に申し訳ないと思っています。今でも、あの番組はぼくにもっと力があれば終わらなかったかもしれない、ぼくがディレクターじゃなければ終わらなかったかもしれない、と後悔しています。

 

 結論。ぼくが思うラジオディレクターの仕事は、「番組が終わらないように精一杯頑張ること」。

 結局「は? どういうこと? そんなの当たり前じゃん」って思われてしまう答えになってしまった。

<第4回に続く>

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