寺島惇太「拝啓、日陰から」②陰キャと学校生活

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公開日:2021/11/27

 いわゆる昭和のダメ親父の典型例みたいな父がいたものの、ぼくの家庭内は平和なものでした。両親からは相応の愛情を受け、妹とも仲良くやれていたわけです。そう、陰キャにとって家庭は絶対安全領域。そこにさえいれば、陰キャ特有の生きづらさを思い知ることはほとんどないと言えます。

寺島惇太
専門学校に入ったころのぼく

 では、そんな陰キャ少年が最初にぶつかる壁とはなんでしょう? それは「学校生活」です。愛情で保護されている家庭を飛び出し、無邪気な同世代の子たちの世界に飛び込めば、それはそれはいろいろなことを経験します。

 小学生の頃から人前に出て発言したり、目立ったりするのは大の苦手でした。でも、陰キャであることを明確に自覚したのは中学生になった頃です。

 当時、ぼくは野球部に所属していました。でも、野球に興味があったわけではありません。そもそも他の部活に入ろうと思っていたものの、そこには友達がひとりもいない。陰キャにとって、それは死活問題です。味方が誰ひとりいない場所に飛び込むなんて、大変なことになります。それはまずい。ぼくの中で防衛本能が働きました。そこで調査した結果、どうやら友達はみんな野球部に入るとのこと。となれば、選択肢はひとつだけ。もう野球部に入るしかなかったんです。

 中学校における野球部というのは、スポーツ部の中でも花形。つまり、陽キャの集団です。そこにいれば、必然的にぼくも陽キャとして扱われる……わけがありません。

 もともと野球に興味がなかったぼくが上手くなるわけもなく、与えられたのは万年補欠というポジション。そのときのぼくは「ベンチの守護神」と呼ばれていました。ベンチを任されたら孫の代まで守り抜く勢いです。

 でも、そこで得た処世術がありました。それは「どんな逆境でも明るく反応する」ということ。陰キャとして生き残るために、ぼくは徹底的に陽キャたちを観察しました。そこで見えてきたのは、人気者ほど不利な状況を上手に切り抜けるということです。イジられたときに俯いてしまうと、陰キャ認定されてしまう。そんなときこそ面白い冗談でかわす必要があります。

「ベンチの守護神じゃん」
「おう、ベンチなら孫の代まで守ってやるぜ」

 そう、これくらいの切り返しが求められるんです。これが陽キャをつぶさに観察して知り得た、寺島流の処世術でした。

 とはいえ、やはり陰キャは陰キャ。どんなに擬態しても陽キャにはなれません。そう痛感させられたのは、趣味の違いを理解できなかったことが一因でした。

 中学生になると、同世代の男子はほとんどが車や服、女性アイドルなどに興味を持ち始めます。でも、それらのなにが魅力的なのか、まったくわからない。みんなが車に夢中になっている間、ぼくはオタマンガやラノベにどっぷりとハマっていきました。ただし、それは絶対にバレてはいけない機密事項。取り扱いに注意しながら、ぼくは密かなオタク趣味を満喫していました。

 と、ここでおとなしくしておけば、学校生活の平穏は守られるはずなのに、そうもいかないのが寺島クオリティ。とことんラノベにハマったぼくは、学校に持ち込み、授業中にも読んでいたのです。だって、それくらい面白かったから! でも、そんなぼくを神様は見逃してくれませんでした。それは掃除の時間のこと。女子がぼくの机を運んでいたら、体勢を崩してしまい、引き出しの中に入れていたものがすべて落ちてしまったのです。

 床にぶち撒けられる教科書やノート。そこには数冊のラノベがありました。しかも表紙に描かれているのは、なかなか際どいイラスト。

「えっ……惇太くん、やば……」

 騒然とする教室内に、あまりにも残酷な女子の一言が響きました。

 なんだか怪しいと思っていたけれど、やはり寺島はオタクだった! だって、あいつもともと陰キャだもん! 陽キャのフリしてたけど、ついに正体を暴いたぞ!

 誰も彼もが、そんな目でぼくを見ていました。あのときの光景は一生忘れられません。陰キャは陰キャ。そんな当たり前のことを突きつけられたのでした……。

【著者プロフィール】
てらしま・じゅんた●1988年8月11日、長野県生まれ。2009年に声優デビュー。『アニメガタリズ』『TSUKIPRO THE ANIMATION』『アイドルマスター SideM』『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-』『A3!』といったテレビアニメを中心に活動するほか、ゲームやドラマCD、映画の吹き替えなどでも活躍。また、2019年には『29+1 -MISo-』でアーティストデビューも果たす。2021年12月には3rdミニアルバムも発売予定。
公式Twitter:https://twitter.com/juntaterashima3
公式YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCDuCCq1gONtzb3YGFUtuwTw

構成協力=五十嵐 大

<第3回に続く>

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