【ノンフィクション本5選】家にこもって一気読みしたい! 推し本をご紹介【書評】

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更新日:2021/11/8

ダ・ヴィンチニュース編集部推し本バナー

ダ・ヴィンチニュース編集部が、月ごとのテーマでオススメの書籍をセレクトする、推し本“+”。11月のテーマは、「ノンフィクション本」です。

人間は傲慢で、問題は繰り返される。ジョニー・デップも演じたユージン・スミスの軌跡を記録した1冊。『魂を撮ろう ユージン・スミスとアイリーンの水俣』(石井妙子/文藝春秋)

『魂を撮ろう ユージン・スミスとアイリーンの水俣』(石井妙子/文藝春秋)
『魂を撮ろう ユージン・スミスとアイリーンの水俣』(石井妙子/文藝春秋)

 人は生き方で躓くし、悩むし、なんやかんや他者の生き方に興味がある。著者の視点が介在しつつもリアルな「他人が歩んだ道」を、ノンフィクション書籍を通して追体験することで生まれる感情や発見は、贅沢なものだと思う。『魂を撮ろう ユージン・スミスとアイリーンの水俣』は、『女帝 小池百合子』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した石井妙子氏がフォトジャーナリスト、ユージン・スミスの、水俣で過ごした最後の3年間を追った1冊。水俣病に苦しむ患者、命がけで立ち向かうその家族、彼らととともに危険を冒しても隠蔽されようとしていた“日本の暗部”を写し出し、世界に発信したのはアメリカ人だったという事実。ユージンの真のジャーナリズム精神により人々の運命が変わっていく様に身震いし、彼らの闘いがなかった未来を想像すると恐ろしくもある。(中川寛子/ダ・ヴィンチニュース副編集長)


生還に導いたチーム力。現代日本人は生き残れるか!?『無人島に生きる十六人』(須川邦彦/新潮社)

『無人島に生きる十六人』(須川邦彦/新潮社)
『無人島に生きる十六人』(須川邦彦/新潮社)

 明治時代、帆船で外洋に出たが嵐で遭難。無人島に漂着した16人の日本人船員たちはこの絶望的な状況から犠牲者なく無事に生還する。物語によくある無人島シチュエーションだが、当然ながら実際は相当なサバイバル能力と、なんといっても強靭な意志がないと生還は相当難しいと痛感した。実際はわからないものの、死や仲たがいなどの場面が一切ないことが逆にそう思わせた。この16人は海のプロであり、みながリーダーである船長と意見を交わし合いながら信じてついていった結果である。ものすごいチーム力だった。同じ日本人としてなんか恥ずかしくなった。と同時に「無人島に1つだけ持っていくなら?」なんて軽く質問をされたら噛みつく人間になったような気がする。(坂西宣輝)


この本を読む前と後では、事件ニュースを見る目が変わる『桶川ストーカー殺人事件―遺言』(清水 潔/新潮社)

『桶川ストーカー殺人事件―遺言』(清水 潔/新潮社)
『桶川ストーカー殺人事件―遺言』(清水 潔/新潮社)

“ペンが世の中を変える”とはこのことだ、と思う。埼玉県の桶川駅前で起こった猪野詩織さん殺害事件は、“ストーカー”というものを広く知らしめ法整備が行われる発端になったできごとだ。実は、その裏にはひとりの週刊誌記者の執念の戦いがあった――。人からすすめられてこの本を知り一気に読んだ日は、事件を核に警察・マスコミ・世論が作りだす底なしのような闇に、怖気と怒りを覚えて目が冴えて眠れなかった。丹念な調査と取材で事件の真相を白日の下引きずり出した、ジャーナリストで当時「FOCUS」記者であった著者・清水 潔さん。たどり着いた結末は、いろいろな意味でこの世の果てのような場所で、あらためて“ノンフィクションである”ことを確認し、静かに身震いした。(遠藤摩利江)



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「自己責任」という言葉を前に臆さないこと『生きさせろ!難民化する若者たち』(雨宮 処凛/筑摩書房)

『生きさせろ!難民化する若者たち』(雨宮 処凛 (著)/ 筑摩書房)
『生きさせろ!難民化する若者たち』(雨宮 処凛 (著)/ 筑摩書房)

「代わりがいくらでもいる人間」に対して、かくも社会は厳しいのか。初めて勤めた会社を8年でやめた後本書を読み、そんな絶望とともに涙が止まらなかった。企業にとって都合の良い雇用形態でありながら差別され搾取される非正規雇用の人々。正規雇用でも長時間労働によってワーキングプア状態の人々。本書は10年以上前に書かれたものだが、今なお存在する労働者の問題、貧困に苦しむ人々の実情を突きつける。「自己責任」という言葉が蔓延する社会で、自らを「貧困」と認めて問題に立ち向かうよりも、自分を責め自分を憎んでしまう方が安易な道だ。だからこそ知識を得て「生きる権利」を主張する大切さを本書で痛感する。(宗田昌子)


「食」を通じて世界を見て、知る、至高のルポ『もの食う人びと』(辺見 庸/角川書店)

『もの食う人々』(辺見 庸/角川書店)
『もの食う人びと』(辺見 庸/角川書店)

 共同通信社の記者として知られたジャーナリスト・辺見庸氏が、1994年に発表したルポルタージュ、『もの食う人々』。初めてこの本に触れたのは大学生の頃なので、もう20年近く前のことなのだが、読みながらずっと感じていた、「今、すごいものを読んでいる」という感覚は、今も鮮やかに思い出せる。バングラデシュ、フィリピン、ベトナム、ソマリア、ウクライナ、ロシア、韓国――「食」への問題意識とともに世界各国をめぐり、そして著者自身も「食」の当事者として対象へと迫る執念がもたらす筆致に、何度も圧倒される。(清水大輔/ダ・ヴィンチニュース編集長)

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