『三千円の使いかた』『カムイ外伝』『赤と青とエスキース』編集部の推し本6選

文芸・カルチャー

更新日:2021/11/22

ダ・ヴィンチニュース編集部推し本バナー

 ダ・ヴィンチニュース編集部メンバーが、“イマ”読んでほしい本を月にひとり1冊おすすめする企画「今月の推し本」。

 良本をみなさんと分かち合いたい! という、熱量の高いブックレビューをお届けします。

沖縄の別の顔『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』(上間陽子:著、岡本尚文:写真/太田出版)

『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』(上間陽子:著、岡本尚文:写真/太田出版)
『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』(上間陽子:著、岡本尚文:写真/太田出版)

『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』は、上間陽子さんの4年前の書籍だが、『海をあげる』が「Yahoo! ニュース 本屋大賞2021年ノンフィクション本大賞」大賞に選ばれたことを機に再読した。沖縄の夜の街で働く6人の少女たちを記録した本書をはじめて読んだ時は、気持ちの整理が追いつかなかった。特定の事件の犯人を追ったノンフィクション本とは違い、こういう現実が現在進行形で起きていて、しかも一点どころではなく点在していることを“知ってしまった”。まるで自分事のように考えこんでしまった。そして、当時は沖縄を訪れた後で、観光地としての表向きの姿に目を向けるばかりで、沖縄の「別の顔」を何も理解していなかったことを恥じた。

 琉球大学の教授として少年少女の問題を研究、調査するという立場や人柄もあるのだろう、上間さんの感情的に介入しない、けれども少女たちに寄り添った聞き取り。それはとても誠実だ。そんな少女たちとの距離から生まれる、上間さんにしか綴れない本書の読み心地は新鮮で、上間さんの静かな強い信念に満ちている。生活の困窮、性暴力、DV、その連鎖…少しでも安心と呼べるものが少女たちにあってほしいと願ってやまないが、「自分の足」で強く必死に生きる少女たちの姿もある。

 最後にもうひとつ紹介したい。彼女たちが強いられている環境を想像する上で、本書のカバー写真は象徴的だ。写真家・岡本尚文さんの『沖縄02 アメリカの夜』(岸政彦さんも参加)に収録された「沖縄市中央」だ。米軍基地が隣り合わせだということ、フェンス前でたむろする子どもたち、街の明かり…。そこには受容できない大きな日本の顔が写し出されている。

中川

中川 寛子●副編集長。今月は林真理子さん、河野裕さん、上間陽子さん、EXILE小林直己さん、吉本ばななさん×渋谷龍太さんに取材する機会がありました。休日はキャンプへ。『ゆるキャン△』1巻で「自然の優秀な着火剤」とリンちゃんが松ぼっくりを大量に集めるシーンがありますが、試してみると確かにその通りでした。


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AIの可能性、あなたはどこまで期待する?『はるか』(宿野かほる/新潮社)

『はるか』(宿野かほる/新潮社)
『はるか』(宿野かほる/新潮社)

 私が9月に推した『ルビンの壺が割れた』の著者・宿野かほるさんの2作目。前作は評判に違わない読み応えだったのと、「前作以上の衝撃」と本作のオビにあり、「ハードル上げて大丈夫か?」と思いつつもワクワクしながら手に取った。物語は、賢人という少年と、はるかという少女が出会い恋に落ちる。すぐ離れ離れになってしまうがずっとお互いを想い続ける2人。大人になり運命的な再会を果たし、幸せな時間を手に入れることができた。しかしはるかが事故に遭い死亡。賢人は彼女ともう一度会うため、生前に残したはるかの音声や動画データ、そして自身の思い出を使い、はるかを再現したAIを完成させる。まるで本当に蘇ったかのようなAIのはるか。2人(というのはおかしいが)が会話を重ねていくうち、賢人の気持ちに変化が生まれ、AIのはるかは驚くべき行動に出る……。人格を持ち、自らの判断で言葉を選び、嘘までつくAI。プログラムで動いている機械とわかっているはずなのに、人と機械との線引きがだんだん曖昧になっていく様子は、こんな技術が実現したら人間はこうなるのだろうか、それは正しいのか、間違っているのかなどとなかなかに考えさせられる内容であった。SNS上でのやり取りでまとめられた書簡体の前作とは全く異なる世界観で、確かにハードルは上がっていたもののちょっとSFチックで、こういったジャンルが好きな私はとても引き込まれる作品だった。次回作も期待したい!

坂西

坂西 宣輝●スマホの機種代金の分割払いが終わってしばらくたっていたので久しぶりに機種変更をしました。お店へ行かずにネットと宅配便でできたのは驚きましたが、「スマホ進歩したなあ」感が以前よりもなかった印象でした。とかいいつつ音声検索などは使ったことがない、機能もてあまし人間です。


本作りの裏方たちの知られざるドラマに胸が熱くなる――『本のエンドロール』(安藤祐介/講談社)

『本のエンドロール』(安藤祐介/講談社)
『本のエンドロール』(安藤祐介/講談社)

 本作の舞台は書籍の印刷・製本を手掛ける印刷会社。そこで働く営業、工場の作業員や職人など本を作る裏方たちのドラマが描かれる。本や雑誌が作られるには、印刷所に原稿が入るまでにもさまざまな事件があり、無理を言って当初の〆切を後ろ倒しさせてもらうことが結構ある。たとえば『ダ・ヴィンチ』が毎月校了するまでにだって大小さまざまなトラブルがあり、その数だけドラマがあるのだ(細かくは書けないけれど!)。

 しかし、この本に書かれているのは、校了の「その後」の物語である。圧迫された納品スケジュールの辻褄合わせを誰がどのようにするのか。本一冊が物体として出来上がるまでに主役である作家さんの他にどのような脇役、裏方がそれぞれどのような熱意を持ち、本作りに関わっているのかが詳細に書かれている。主人公である印刷会社の若手営業・浦本は、著者や編集者の要望を現場の職人たちに伝える調整役なのだが、良い本を作りたいという熱意から、出版社の無茶な要求を聞いて、現場に負担をかけることになり、工場の作業員に嫌な顔をされたりする。形は微妙に違えど、同じ営業職の身である僕はこの浦本にがっつり感情移入してしまった。あなたも読めば必ず誰かしら感情移入してしまう登場人物がいるはず。

 あまりに慣れ親しみすぎて、忘れてしまっていたけれど「本」という物体そのものの美しさや魅力に気づかされる読書体験となりました。

今川

今川 和広●ダ・ヴィンチの広告営業。本作の浦本に感情移入しつつ、先輩のトップ営業・仲井戸さんのようなカッコいい仕事ぶりを身に着けたい今日このごろです。