夢や将来へとつながる、ひたむきな「努力」の意味『金の角持つ子どもたち』/佐藤日向の#砂糖図書館㉛

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公開日:2021/11/27

佐藤日向

「受験」。この言葉を聞いて思い浮かぶのは、どんな場面だろうか。

 指定校推薦のために小論文の練習をひたすら繰り返したり、志望校を目指して勉強をひたすら続けた日々。きっと人それぞれ思い浮かべる瞬間は違うだろう。

 今回紹介するのは『金の角持つ子どもたち』という藤岡陽子さんの作品だ。サッカーで選抜メンバーに選ばれなかった小学校6年生の少年が、熱く向き合うものをサッカーから中学受験に変えるところから始まる。勉強と向き合うことの難しさや、受験に向けて頑張る日々の移り変わりが、丁寧に描かれている。

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 本書を手に取った時は、熱いスポ根のような作品なのかと思っていたが、ページを捲る途中で何度も目頭が熱くなり、「努力」という言葉の重みを知った。私自身、子どもの頃はとにかく色々なことに興味を持つ性格だったため、自分の意思で小学校受験に挑戦したいと両親に申し出たことがある。両親は私が挑戦したいと言ったことを否定したことはこれまで一度もなく、誰よりも全力で応援してくれる。

 本作を読み進めながら、父が私の受験のために何枚も問題用紙をプリントしてくれて、理解するまで付き合ってくれたことを鮮明に思い出した。残念ながら結果、筆記試験は合格だったものの、最後の定員調整のくじ引きで私のくじ運の悪さが出たため、不合格ではあったが、今思えばあの時に私は初めて”努力をする”ことを学んだのだと思う。

 努力をすることは本当に難しく、限られた人にしか継続することができない。なぜなら、努力をするためには楽をすることを諦めなければならないからだ。”楽をする”という誘惑は至る所にあり、「どうしてまわりは遊んでいるのに、自分ばかり努力しなければならないのだろう」という気持ちになる。だが、努力というのは絶対に裏切らない経験のひとつだと私は思っている。中でも勉強は、特に努力をした分だけ結果として現れる。

 作中に出てくる「限界まで頑張れば、見たことのない景色に出合うことができる、自分自身が想像もしなかった場所までいける」この言葉が、印象に残った。努力を続けた人にしか見えない景色は、確かにあるのだ。まだ何にも挑戦したことがない人が、何かを必死に頑張っている人を見て、「自分も頑張らなきゃ」と思う人もいれば「何でそんなに必死なの? かわいそう」と思う人もいる。私は自分の時間が作れなくてかわいそうという考えではなく、夢を目指すための一歩が努力だと考えている。何かを成すためには犠牲が必要だからだ。その犠牲というのが”時間”だと思う。人それぞれ、時間の使い方は違う。そしてその時間の使い方が、のちに夢や将来へと繋がるのではないだろうか。

「本当に可哀そうなのは、夢を持てない大人になることじゃないだろうか。自分に自信が持てないことじゃないだろうか。」作中に登場するこの言葉のように、自分に自信をつける武器のひとつとして、何かを頑張ってみたくなる本作。努力をするのに一歩踏み出せない、そんな方に一度ページを捲ってみてほしい。

さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして、メジャーデビュー。2014年3月に卒業後、声優としての活動をスタート。TVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)のほか、映像、舞台でも活躍中。