隣の席の特権! 美少女に忘れた参考書を見せてもらってからの、突然のデレ…/時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん③

文芸・カルチャー

更新日:2021/12/4

ロシア人の父と日本人の母をもつ、銀髪の美少女アーリャさん。そしてその隣の席という、多くの男子が羨むポジションにいる久世政近。政近に当たりがキツイアーリャだったが、ロシア語で時々ボソッとつぶやくのは…「Милашка(かわいい)」「И наменятоже обрати внимание(私のことかまってよ)」!! そしてアーリャは政近がロシア語をわかることを知らないまま甘々なロシア語でデレてくる…! ニヤニヤが止まらない青春ラブコメ『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』(燦々SUN/KADOKAWA)1巻の冒頭を試し読み!!

時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん
『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』(燦々SUN/KADOKAWA)

第1話『無料ガチャって逃すと無性に悔しくない?』

「あれ?」

 机の中を漁り、続いて鞄の中を覗き、止めに教室後方のロッカーの中を確認してから、政近は少し焦りを覚えた。

 次の授業で使う参考書が見当たらないのだ。教室の時計を確認すると、次の授業が始まるまで残り二分弱。隣のクラスにいる妹に借りに行くにしても、少し迷惑な時間だろう。

 やむなく、政近は左隣のアリサにススッと身を寄せると、小声で手を合わせた。

「悪い、アーリャ。化学の参考書見せてくんない?」

 その言葉に、アリサは呆れ半分迷惑半分の表情で振り返る。

「なに? また忘れたの?」

「ああ、たぶん家に忘れた」

「ハァ……まあ、いいけど」

「ありがとっ!」

 アリサの溜息交じりの首肯に、政近はそそくさと机をくっつける。

「久世君……あなた、いい加減忘れ物多すぎじゃない? 高校生になっても全く減る気配がないじゃない」

「仕方ないだろ? そもそも教科書が多すぎるんだよ」

 この征嶺学園は、私立の進学校であるために異様にテキストの量が多い。

 それぞれの教科につき複数の教科書や参考書があるのは当たり前。授業によっては教師のオリジナルの冊子まであったりする。

 そのくせ伝統を重んじているのか知らないが、学生鞄の規格は何十年も前から変わらず、普通に一日分のテキストとノートを入れたらそれだけで鞄がパンパンになってしまう。

 そのため、生徒はみなロッカーにいわゆる置き勉をしているのだが、政近からするとこれが曲者なのだ。

「昨日机の上になかったから、ロッカーにあると思ってたんだけどな……当てが外れた」

「ちゃんと確認しないからでしょ? 何を持ち帰って何を置いてきたのか、きちんと把握してないからそうなるのよ」

「返す言葉もない」

「口先だけは立派なんだから」

「うぇ〜い、辛辣ぅ〜」

 特に反省した様子も見せずに棒読みでそんなことを言う政近に、アリサはすっかり呆れた様子で肩を竦める。

 アリサは化学の教科書一式を机の中から取り出すと、じろりと胡乱な目を政近に向ける。

「で、どの教科書?」

「あ、それそれ。その青いやつ」

 政近の言葉に、アリサはその参考書を開くと、二人の机の間に置いた。それにお礼を言って、先生の講義に耳を傾け……たのだが、そこからが政近と睡魔の戦いだった。

(ダメだ、眠っむい)

 寝不足に加え、二時限目が体育だったことがそれに拍車を掛けている。

 それでも板書をしている最中は眠気に抗うことが出来ていたが、先生が問題を生徒に当て始めた途端に一気に眠気が加速した。

 先生とクラスメートのやりとりが、まるで子守歌か何かのように聞こえてきて、ついウトウトと……

「ンぐっ!?」

 ……した瞬間、政近の脇腹にゴリッとシャーペンの頭がねじ込まれた。

(あ、あばら……あばらの、隙間……っ!!)

 痛烈な不意打ちに無言で悶絶しながらも、隣に抗議の視線を向け……純度百パーセントの侮蔑の視線に迎撃され、首を縮めた。

 その細められた青い瞳が、何より雄弁に「私に教科書見せてもらっておいて居眠りするとはいい度胸ね」と言っていたから。

「(すみません……)」

「ふんっ」

 すっかり眠気が吹き飛んだ政近は、視線を正面に向けたまま小声で謝罪する。

 返ってきたのは侮蔑に満ちた鼻息だけだったが。

「それじゃあ、次の空欄に入るのは? そうだな、久世」

「え、あ、はい」

 そこでいきなり先生に当てられ、政近は慌てて立ち上がった。

 が、直前まで寝かけていたのだから、答えなど分かるはずもない。

 そもそも、どこの問題なのかすら分からない。救いを求めてチラリと隣を見下ろすも、アリサは知らん顔で政近の方など見向きもしない。

「どうした? 早く」

「あ、えっと……」

 正直に分からないと言おうか。そんな考えが頭に浮かんだその時、アリサがふっと息を吐いて、教科書の一部分をトントンと指で叩いた。

「っ! ②の銅!」

 心の中でアリサに感謝を告げながら、政近は指し示された選択肢を答えた。が……

「違う」

「ぇ?」

 即答で否定され、間の抜けた声を漏らす政近。

(違っげーじゃねぇーか!)

 内心で絶叫しつつバッと隣を見下ろすも、アリサは変わらず知らん顔。いや、よく見ると口元が若干笑っていた。

「それじゃあ、その隣の九条」

「はい、⑧のニッケルです」

「正解だ。久世、ちゃんと授業は聞いておけよ?」

「あ、はい……」

 先生の叱責に政近はすごすごと席に座り、しかしすぐにアリサに対して小声で抗議をした。

「(普通に間違いを教えるなよ!)」

「(私はどこの問題かを教えただけだけど?)」

「(嘘吐け! 明らかに②を指差してただろうが!)」

「(酷い言いがかりね)」

「(目が笑ってんだよ!)」

 今にも「うがぁ!」と叫びそうな政近に、アリサは小馬鹿にした笑みを浮かべて鼻で笑う。そして、ロシア語でボソッと呟いた。

【かわいい】

 突然のデレに、政近は頬がひくつきそうになるのを必死に抑え込んだ。反動で手が震えそうになるのを我慢しながら、なんとかすっとぼける。

<第4回に続く>

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