「私だって銀髪なのに」ゲームのキャラにヤキモチをやく隠れツンデレ娘に背筋がムズムズ/時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん⑤

文芸・カルチャー

公開日:2021/12/5

ロシア人の父と日本人の母をもつ、銀髪の美少女アーリャさん。そしてその隣の席という、多くの男子が羨むポジションにいる久世政近。政近に当たりがキツイアーリャだったが、ロシア語で時々ボソッとつぶやくのは…「Милашка(かわいい)」「И наменятоже обрати внимание(私のことかまってよ)」!! そしてアーリャは政近がロシア語をわかることを知らないまま甘々なロシア語でデレてくる…! ニヤニヤが止まらない青春ラブコメ『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』(燦々SUN/KADOKAWA)1巻の冒頭を試し読み!!

時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん
『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』(燦々SUN/KADOKAWA)

「(お、おい、今の撮れたか?)」

「(いや、ちょっと角度が……)」

「(ふっ、任せろ。ウインクの瞬間、バッチリ押さえたぜ)」

「(おおっ! マジかお前、超有能かよ!)」

「(その画像くれ! 千円までなら出すぞ!)」

「没収」

「「「ゲェッ!? 九条さん!?」」」

 こっそり盗撮していたスマホを取り上げられ、一斉に悲鳴を上げる三人の男子。

「なんすか九条さん! 俺達なにも──」

「なにも?」

「あ、いや、なんでもないっす……」

 往生際悪くとぼけようとするも、ギロンと向けられた視線に一瞬で萎縮する男子。

 しかし、それも無理はない。実際、ツンと顎を上げ見開いた目でギロンと見下ろすアリサの姿には、大の男でもたじろぎそうな迫力があった。

 その冷たく厳しい視線、まさにツンドラ級。

 背後にブリザードでも吹き荒れていそうなその迫力に、アリサのウインクに盛り上がっていた他のクラスメートも皆一様にサッと視線を逸らすと、その余波が自身に及ばないよう息を潜めた。

 無人の雪原を行くがごとく、四台のスマホを手に自分の席に戻るアリサ。

 俯き、ブリザードが過ぎ去るのを待つクラスメート達。だが、その威容を前にしても全く恐れ入ることのない男子が約一名。

「お許しくだされぇ〜どうかお慈悲を〜」

 戻ってきたアリサの足元に身を投げ出すようにして、手を合わせて哀れっぽく懇願する政近。この期に及んで軽い雰囲気を捨てない政近に、周囲から勇者を見る目が向けられる。

「仕方ないんじゃよぉ〜。無料ガチャでSSR出たら、そりゃあそっち見ちゃうんじゃよぉ〜」

 その上、自己弁護までする政近。周囲から「こいつマジか」といった視線が政近に集まる中、アリサはツンドラな表情はそのままに、政近から取り上げたスマホに視線を落とした。

「……SSR、月読? 月読って日本神話の月の女神でしょ? なんで黒髪じゃなくて銀髪なの?」

「え……さあ? 月のイメージからじゃない? まあ、可愛いんだからいいじゃん、細かいことは」

「……ふぅん」

 実にイイ笑みを浮かべる政近に、アリサがスゥッと目を細める。

 同時にアリサのまとう空気が数段温度を下げて北極級になり、政近は内心「え? なんで?」と呟いて笑みを引き攣らせた。

「……とりあえず、これは電源を切って放課後まで預かっておくわ」

「ちょっと待てぃ!! そのまま電源落としたらセーブされない可能性が!?」

 無慈悲に電源を落とそうとするアリサに、政近は本気で慌てる。

「お前が気に入らないのは俺だろう!? 彼女には罪はない! 俺はどうなってもいいから、彼女だけは解放してくれ!」

「なんで私が悪役みたいになってるのよ」

 最愛の恋人でも人質に取られたのかと思うほどの必死さで、なんとか思いとどまるよう言葉を尽くす政近。

 それを見下し切った目で見遣ると、アリサは溜息と共にグイッとスマホを突っ返した。

「ありがてぇ、ありがてぇ」

「……フンッ」

 スマホを両手で受け取って拝み倒す政近に、アリサは不機嫌さを隠そうともせずに鼻を鳴らすと、他の三台のスマホも持ち主に返した。

 盗撮した画像を削除するのをきっちり見届けてから、荒々しく自分の席に腰を下ろす。

「うわぁ〜マジで月読様だぁ。絶対当たんねぇと思ってたわ……」

「……」

 自身の髪をくるくると指に巻き付けて弄びながら、アリサはキラキラした目でスマホの画面を眺める政近をチラリと見て、むっと唇を尖らせた。

【私だって銀髪なのに】

 突如飛来した不意打ちのヤキモチに、政近はピシッと固化した。

「……なんだって?」

 流石に聞き逃せずに、引き攣った表情で顔を上げる政近。そちらを冷たい視線で一瞥したアリサは、髪を弄ぶのをやめて吐き捨てるように言った。

「『このゲーム廃人』って言っただけ」

「おい、その言い方は失礼だろう」

「な、なによ」

 珍しく真剣な表情で険のある声を上げた政近に、アリサが少したじろぐ。が、すぐに「何も間違ったことは言っていない」と強気に睨み返した。緊迫感溢れる空気に再び周囲の視線が集まる中、政近は大真面目な顔で注意をした。

「無課金勢である俺を廃人呼ばわりするなんて、真の廃人である重課金勢に失礼だと思わないのか?」

「そうね、誰であれあなたと一緒にはされたくないでしょうね」

「キッツぅ!?」

 無駄にキリッとした顔でアホなことを言う政近に、アリサのゴミを見るような視線が突き刺さる。それが物理的に突き刺さったかのように、ぐはぁっと胸を押さえる政近。

 どこまでも芝居がかった態度を貫く政近に、アリサはもう付き合い切れないとばかりに大きく溜息を吐いた。

「まったくもう……珍しく真面目な顔するから何かと思えば……」

「おいおい、心外だな。俺はいつだって真面目だぞ? 真面目さが取り柄と言っても過言ではない」

「今世紀最大の過言よ」

「今世紀まだ八割も残ってますけど!?」

「はぁ……もういいからスマホしまいなさいよ」

 やれやれと肩を竦め、疲れ切った表情で頬杖を突く。

 それを見て、政近も「ちょっと遊び過ぎたか」と肩を竦めた。このくらいにしておくかと、スマホをしまおうとして……直後、耳に届いたロシア語に動きを止めた。

【真面目にしてればかっこいいのに】

 なんとも背筋がムズムズするような呟きに、思わず振り返る。

「なんだって?」

「『期待して損した』って言ったのよ」

「……ああそう」

「ええそうよ」

 口には出さず、内心で「嘘吐けやぁぁ!!」と絶叫する政近と、「バーカ。ふーんだ」と舌を出すアリサ。その心の声を正確に汲み取り、政近は頬を引き攣らせた。

(ぜ、ん、ぶ、伝わってんだよこっちはぁぁぁ!!)

 そう思いっ切り叫べたら、どんなにスッキリするか。だが、それを明かして損をするのは自分の方だ。

(ぬ、ぐぐ……)

 明かせないと分かってはいるが、どうにもモヤモヤする。なんとかこの隠れツンデレ娘の鼻を明かしたいと、歯噛みをするが……その時、不意に教室の前の扉が開いた。

「お〜っし、ちょっと早いが授業始めるぞ〜……って、久世。なんでスマホを出してるんだ」

「あ……」

時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん

 入ってきた先生に指摘され、今更ながら自分がまだスマホを持っていたことに気付く政近。

「いや、これはちょっと課題で調べものを……」

「九条、本当か?」

「いいえ、久世君はスマホでゲームをしていました」

「うぉい!?」

「やっぱりか。こっちへ来い久世! 没収だ!」

「いや、やっぱりってなんですか、やっぱりって!」

 渋々教壇に向かいながら、先生に抗議をする政近。その背を眺めながら、やれやれと溜息を吐くアリサ。

「はぁ……ホントにバカ」

 心底呆れた声音で呟くが、その声とは裏腹に、その口元にはうっすらと笑みが浮かんでいた。だが、政近含めクラスメートがそれに気付くことはなかった。

「(うおっ! アーリャ姫が笑っている!?)」

「(うおおぉ! シャッターチャンス!)」

「(撮れ撮れ! くそっ、カメラが起動せん!)」

「先生、そこの三人もスマホ使ってます」

「「「ノォウ!!」」」

 ……約三名の、本物のおバカを除いて。

<続きは本書でお楽しみください>

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