「まつもとあつしのそれゆけ! 電子書籍」 【第19回】ニコニコ動画はなぜ有料メルマガ事業「ブロマガ」を開始した?

更新日:2013/8/14

「人気者」じゃないと成功できない?

まつもと :しかし、よく有料メルマガへは「すでに有名人や人気者でないと成功できないのでは?」という批判も耳にします。その点についてはどうでしょうか?

宮原 :先鞭をつけるという意味では、最初の段階ではどうしても著名な方や、完成度の高いコンテンツを提供して関心を持ってもらう必要があるのは否めません。たとえば2007年にスタートしたニコニコ生放送も、当初は私たちが公式番組を自ら制作してスタートさせました。今まさにブロマガも試験運転という段階ですね。こなれてきたら、誰もが使えるプラットフォームに拡げていきたいと考えています。実際、門戸が開かれていないわけはなく、オープン当初は76チャンネルからスタートしたのですが、今では139(※10/10時点)まで増えています。申し込みもWebから「クリエイター活動」をされている方であれば個人・法人を問わず可能です。お金の受け渡しが発生しますので、最低限の確認をさせていただいていますが。

まつもと :なるほど、現在はシステムのチューニングを施しつつ、少しずつ書き手を増やしている段階ということですね。実は、わたしもアニメ評論家の藤津亮太さんのブロマガ生放送に出演させていただいたことがあります。とても楽しかったのですが、システムや企画もいまはいろいろ試行錯誤の段階にあるということも感じました。

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宮原 :まさにそうですね。月に1、2回の生放送と4回程度のメルマガ配信を組み合わせていらっしゃる方が多いのですが、先日、弊社の夏野(※取締役の夏野 剛氏)は「シャープについてメルマガを書いたけど、とても言い足りない。生放送でやろう」ということになり、ひろゆきも交えて3時間以上話したりということもやってました。

かべ :3時間!

宮原 :実は僕もかり出されたりしたんですよ(笑)。

まつもと :夏野さんにも何度か取材させていただいたので、その雰囲気はとてもよく分かりますね(笑)。ニコニコ動画として、ブロマガの標準的な運営方針を示したりということはあるのでしょうか?

宮原 :特にそういうことはやっていないですね。人によっては不定期だったりもします。基本的には自由ですが、アドバイスを求められれば事例をご紹介したり、ホットトピックスについては討論会をやりませんか、といったご提案をするということはやっています。

まつもと :なるほど、とはいえ、メルマガやブログをこれまである程度運営していた方は問題ないかもしれませんが、はじめてそういう分野にチャレンジしようという人にとっては、動画もとなるとハードルが高いということはありませんか?

宮原 :ブロマガに参加していただくみなさんには、動画も含めた配信のためのツールをご提供させていただいています。最近のノートパソコンには生放送のできるようなマイクやカメラが備わっていますし、画質を上げたいという場合は家庭用のビデオカメラでクオリティを上げることができます。このあたりは実際に多くのユーザーがニコニコ生放送でやっていらっしゃることでもありますので、一度覚えてしまえばそれほど負担なくできるはずです。そしてブロマガとしては、著者さんと購読されている会員さんとのコミュニケーションが重要なので、映像に凝るよりも自分の考えや思いをどのように発信するか、そちらに注力いただければと思ったりもしますね。

著者への還元とメディアとしてのブロマガ

まつもと :有料メルマガや電子書籍を巡っては、その料率も議論になっています。ブロマガについてはいかがでしょうか?

宮原 :そうですね。ブロマガはアプリマーケットでは一般的な著者さんに70%をお戻しするモデルをとっています。通常、電子書籍では紙の書籍同様の10%前後の還元ですから、かなり高い料率になっていると考えています。

まつもと :流通コストが異なるとは言え、単純に比較すると魅力的な数字ですね。

宮原 :従来、雑誌に連載をしながらそれがたまると本になるという流れはありましたが、近年は雑誌そのものの数も減少していますし、「本になって売れるかどうか」という判断が最初にあるので、企画もどうしても限定されたものになってしまいがちだと聞きます。ブロマガであれば、著者が書きたいものを書きたいように書けるというメリットもありますね。

かべ :うーむむ、なるほど。

宮原 :また出版社にとっても、そういう場に対するニーズがあって、今回いくつかの出版社さんに参加いただいています。ブロマガで書いてもらい、書籍化の際には自らの手で世に出していく、そんなイメージですね。

まつもと :メディアが力を入れている例としてはたとえばどんなものが?

宮原 :いま「声優グランプリ」さんが、かなりいろいろなコンテンツを展開されています。

水樹奈々さんなど人気声優の記事コンテンツや生放送を月額525円(税込)で楽しむことができて、すでに動画の視聴者数は1万3千人を超えています。

まつもと :従来も生放送や動画配信を中心に、コンテンツホルダーが自ら情報発信をできる公式チャンネルは存在していましたが、今回メルマガやブログの機能が加わったことで、メディアとしての発信力が強化されたようなイメージですね。

宮原 :そうですね。ファンにとっては、声優さんの動く姿を見たいというニーズは強いものの、生放送を毎日行うのは大変です。雑誌コンテンツを少しずつ更新していきながら、コンスタントに動画コンテンツを配信していくというのが、1つのスタイルではないかなと思います。

まつもと :なるほど。いくつか例を挙げていただいたように多種多様なチャンネルが存在しているわけですが、ニコニコ動画で起こっているような関連性の高いコンテンツが連鎖的に人気が出る仕組みは用意されているのでしょうか? 従来のメルマガ方式ですと、個々のコンテンツは分断されていたわけですが。

宮原 :そうですね、新着記事については我々のトップページで取り上げられますし、津田さんのように無料で記事を公開すればいろいろなところから見ていただける可能性が高まります。先日購読者数ランキングを公開しましたが、サイト上のランキングは固定ではなく、その時々の急上昇ブロマガがフィーチャーされるようになっています。

まつもと :夏野さんはUstreamに対するニコニコ生放送の違いをメディアとしてそれぞれのコンテンツを特集したりする点だと指摘したことがありますが、ブロマガはいかがでしょう?

宮原 :まだ試験的な取り組みですが、内閣改造をテーマにこんなページを作ったりもしています。今回は、著者の方にお声がけをして執筆をお願いしました。

かべ :おお、週刊誌みたいですね。デヴィ夫人の存在感がすごい(笑)。

まつもと :これは濃い著者が集まるブロマガならではという感じがしますね。最後に、いまCakesなど有料メルマガの発展系とも言えるサービスも増えているわけですが、ブロマガはここが負けないぞ、という点があれば教えてください。

宮原 :そうですね。繰り返し強調したように、書き手と読み手がつながって実際にコミュニケーションが取れるというのが第一ですね。無料でWeb公開すればより多くの人に読んでもらうこともできます。そして活動支援という面でも、従来の書籍や音楽CDなどに比べて、どのくらい還元されるかという点が明瞭です。書籍化を前提とする雑誌や広告モデルと異なり、表現にも制約がありません。結果的に、応援したい書き手を支援し、次のコンテンツを生んでいくことにつながっていくはずです。これからも進化をさせていきたいと思いますので、ブロマガをよろしくお願いします。

かべ :なるほど、「ニコニコ静画(電子書籍)」との違いもよく分かりました。本日はありがとうございました!

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■ダ・ヴィンチ電子ナビ編集部:d-davinci@mediafactory.co.jp

イラスト=みずたまりこ

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