長距離バスを舞台にした、2人の運転士と乗客の一期一会ドラマ『おかえり、南星バス』/マンガPOP横丁(89)

マンガ

公開日:2021/12/10

からっぽのアイネ
『おかえり、南星バス』(まどさわ窓子/白泉社)

 はりまが小学生のころ、親と一緒に東京駅から約700kmの道のりを9時間半かけて青森駅まで向かう路線を利用したことがある。その魅力といえば、なんと言っても手軽で、飛行機や新幹線と比べて圧倒的にリーズナブルなところだ。どのくらいかというと、先ほどの区間なら飛行機の運賃の約4分の1。鉄道でも約半分だ。なので最近の長距離バスの客層は学生などの若年層が多いとか。『おかえり、南星バス』(まどさわ窓子/白泉社)は、そんな長距離バスに関係する人たちのドラマを楽しめる作品だ。


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 日本最大のバスターミナルである東京の『バスタ新宿』から富山の氷見営業所までを結ぶ長距離バス『南星バス』は、目的地まで2人の運転手が交替して運転する“ツーマンバス”だ。その運転手で元ホストの陣とクールでマイペースな年下後輩・鳴瀬はある日バディを組んで運行を務めることになる。だがそりが合わず、陣は鳴瀬の態度にモヤモヤしていた。ぎこちないまま搭乗チェックを終え、定刻通りバスタ新宿を出発。関係が不安定な運転手2人と乗客との数時間の小さな航海が始まる――。

 南星バスでは、船が海を渡ることはバスに置き換えても同じだというところから、一連の営業運転を“航海”と独自に呼んでいるそうだ。さて、運転手の陣と鳴瀬はこの航海の中でいろんな乗客と出会うが、時にはハプニングに遭遇することも。運転手へムチャぶりしてくる人や、1人で利用する小さな子ども、乗り場がわからないおばあさんへの手助けといったものから、長距離運転で必ず訪れるパーキングエリアでの休憩時間の、そのエリア内にある食事処で働く店員さんの淡いエピソードなど、長距離バスに関わる人たちのさまざまな一期一会のドラマが2人の運転手を中心に描かれていく。陣と鳴瀬とのギクシャクした会話劇に笑ったり、接客術に感動したりと、いろいろな楽しませ方が詰まった作品だ。

 最後に、物語の中でいわゆるサービスエリアめしが紹介されているが、読んでいくうちに「白えびかき揚げそばを食べてみたい!」などとつぶやかずにはいられなくはず。私自身、この記事を書いている今その思いが止まらないのだが……!

マンガPOP横丁

文・手書きPOP=はりまりょう

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