主役とバイプレイヤー。舞台の魅力を引き出す、それぞれの輝き『こう見えても元タカラジェンヌです』/佐藤日向の#砂糖図書館㉜

アニメ

公開日:2021/12/11

佐藤日向

 舞台、演劇。この言葉を聞いて思い浮かべる演目がある人もいれば、自分とは無縁の世界だと感じる人もいるだろう。舞台は、生のお芝居を体感できる映像作品とは違った魅力が詰まったエンタメだ。

 今回紹介するのは、『こう見えて元タカラジェンヌです』という、元タカラジェンヌである天真みちるさんが綴ったエッセイだ。宝塚ファンの友達から宝塚の魅力を聞くことはあったが、実際に劇場にお芝居を観に行ったことがなく、宝塚に対して漠然とキラキラしている場所というイメージがあった。

 本作では、作者である天真さんが宝塚音楽学校に入学し、宝塚歌劇団を退団するまでを、持ち前の明るさと笑顔溢れる文章で語られている。

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 私自身、舞台に立つひとりとして共感する点もたくさんあったが、全体を通して「なぜ天真さんが在団中に観劇をしていなかったんだ!」と思わず悔しくなってしまうくらい、宝塚についてのことが事細かく描かれていた。彼女は所謂”トップスター”ではなく、「オジ専」(オジサン役専門)と名乗る、バイプレイヤーとして活躍されていたのだそうだ。

 舞台は、観客の視線を集められる人が役者として秀でている、と私は思っている。これは主役だけに限らず「主役を喰らう」という心持ちで、常に貪欲に自分が演じる役と共に舞台で輝いている人のことを指す。

 私自身、舞台で主役は演じたことがないけれど、主役でなくても与えられた役を引き立てられるのは自分だけだからこそ、丁寧に演じようといつも心がけている。私に芝居の基礎を事務所に所属した時から叩き込んでくれた方が、芝居のレッスンで「台詞がある人よりもない人の方が大変だ」と仰っていた。子どもの頃は「長台詞を覚える方が大変なのに、どうしてそんなことを言うのだろう」と思っていたが、たくさんの舞台に立たせて頂いたからこそ、今はその言葉の意味がわかる。

 観客は、まずは長台詞を言う人に目が行くため、脇を飾る役者は言葉を発していない状態をどう演じるかが大切になってくる。それは作風によって変わるだろうし、演じ方によっては観客の目を、台詞を話すことなく奪うことだって可能だ。

 著者である天真みちるさんにも、「見たくなくても、あなたの瞳にダイビング! 花組の視線ドロボウ天真みちる」というキャッチコピーがある。彼女の演じた”オジサン”達は、まさしく視線にダイビングするような、気づいたら見てしまう印象的な役になっていることが、文章から伝わってきた。

 彼女が宝塚で目指した「脇役のトップスター」。この言葉を見た瞬間、私がなりたいものはこれかもしれない、と直感的に感じた。舞台では主役のことを座長というが、私は未だに座長というポジションが眩しくて、手の届かない場所のような気がしている。でも、本書を読んでから、考え方を変えてもらえた気がする。いつかトップスターにならなければならないと焦るのではなく、自分らしい表現を芝居の中に見つけることが大切なのかもしれない。

 本書は、「観劇」と表現した方が適切と思えるくらい、演劇愛の溢れた作品だ。宝塚が好きな方、あるいは宝塚について実はよく知らないという方にも是非、血の滲むような努力があってこそ生まれるキラキラした舞台の世界を感じてほしい。

さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして、メジャーデビュー。2014年3月に卒業後、声優としての活動をスタート。TVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)のほか、映像、舞台でも活躍中。