人生に完敗/オズワルド伊藤の『一旦書かせて頂きます』㉕

小説・エッセイ

公開日:2021/12/24

オズワルド伊藤
撮影=島本絵梨佳

この瞬間の為の1年だったと、この言葉の為の1年だったのだと、M-1グランプリ2021ファーストラウンド終わりの審査タイムに魂が震えるような喜びに気失うかと思った。
昨年のM-1で、松本さんと巨人師匠からのアドバイスが真っ二つに割れて、正直大パニックのまま走り出した2021年、全てが報われたあの時間の為に生きていたと言っても過言ではないのである。

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とにかくたまらなかった。
あんなところで泣くやつどう考えても面白いわけないと思われるのでどうにか押し込んだが、量だけで言ったら初めて『みにくいアヒルの子』(岸谷五朗主演ドラマ)観たときくらいの涙が出るところだった。なんならガースケ(岸谷五朗)に泣くなと言われた感覚すらあった。

出順にしろ流れにしろネタ自体の出来にしろ、今の自分達のMAXを出せたし、ファーストラウンド1位通過という最高のかたちで終えることも出来た。
ファーストラウンド全組のネタが終わり、ネタ合わせの為インディアンスさんと錦鯉さんのネタをしっかり観ることは出来ず、ファイナルラウンドで2本目の漫才をしているときまで、まじで絶対に優勝すると思っていた。
なんなら2本目をやる直前、もう4年くらい密着でついてくれている鈴木さんというカメラマンさんに、「今までありがとうございました」とか言って飛び出していった。
だって中学生から観てきたM-1グランプリの、最もチャンピオンが多く生まれた流れだったんだもん。あとなにより、普段ライブでかけてきた結果、本当に2本目のネタに自信があったから。

そして2本目のネタが終わり、舞台袖にはけてきて、鈴木さんと目が合ったときの僕の第一声は「来年もよろしくお願いします」だった。
1本目のネタ終わり、確実に優勝すると思った。
2本目のネタ終わり、優勝するわけないと思った。
たったの1日、3時間弱の間に、こんなにも真逆に感情揺さぶられることなんてあるだろうか。

もちろん2本目のネタの最中に、諦めながら漫才をしたのかと言われたらそんなわけがないのだが、途中で一瞬、あれ? と思ったのは否定出来ない。
「今までありがとうございました」の僕が想像していた現実と、あまりにもかけ離れたウケ方だったから。
優勝する為にやってきたこの1年。優勝出来なかったことはさることながら、完璧な状態で2本目をやり切ることが出来なかったことが一番悔しい。
語弊があるが、完璧にやれていたら優勝していたのにといった話ではない。
あんなに大事なネタを、一番綺麗な姿で大舞台に立たせてやれなかったことが悔しくてならなかったのである。

だから負けたことの悔しさを感じることはほぼなかった。いや悔しくないのかと聞かれたらもちろん悔しいに決まってるのだが、その内訳の全てが負けたことによるものではないという話。

あとはまああれだな。
こんなこと僕が言うのは違うのかもしれないが、負けた相手がよかったとは思う。
錦鯉さんに負けたと考えると、もう笑うしかねえのである。
この感覚をわかって頂けるかわからないが、優勝が決まった瞬間に泣きじゃくるスキンヘッドのアホおじさんの横顔は、どんなキャバ嬢も落とせるくらいかっこよかった。まさのりさんを見てそんな風に思えることなんて、金輪際未来永劫訪れないのだが、少なくともあの瞬間、まさのりさんがなにを思って泣いているのか、あのおじさんが芸人をはじめてから今日に至るまでのバックボーンを、その限りなく後半戦しか見ていない僕でも、なんとなくその人生が垣間見えて、本当に本当にかっこよかったのだ。
漫才でも負けたが、人生においても、気持ちのいいくらいの完敗だと思った。

というわけで、我々オズワルドのM-1グランプリはもう少し続きます。
来年はしんどい年になりそうとか、ハードルが上がりきっているだとか、もう優勝は厳しそうだとか、そんな声には来年の僕らしか答えられないのだと思う。
毎年毎年毎年毎年言ってますが来年必ず獲ります。
オズワルドはこんなもんじゃありません。度肝抜いて優勝します。だってやっぱり死ぬほど悔しいんだもん。
皆様もう1年だけ応援よろしくお願いします!
来年! 必ず! 確実に! 優勝するんだ絶対に!

錦鯉さん! 優勝おめでとうございます!
一旦辞めさせて頂きます。

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オズワルド 伊藤俊介(いとうしゅんすけ)
1989年生まれ。千葉県出身。2014年11月、畠中悠とオズワルドを結成。M-1グランプリ2019、2020、2021ファイナリスト。


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