僕と世界堂①/永塚拓馬です。

アニメ

公開日:2021/12/30

デビュー以来、人気作・話題作に多数出演する声優・永塚拓馬さん。多趣味で好奇心旺盛、興味のあることは突き詰めていく。「1日が100時間あればいいのに……」そう語る永塚さんが日々の中で、何を感じ、思っているのか。学生時代からデビュー、声優の仕事、アーティストデビューなど、現在までを綴ってもらいます。

永塚拓馬
撮影:永塚拓馬

 最近、趣味で1日30分だけ絵を描くということを始めました。

 そもそもなぜ声優である自分が唐突に絵を描き始めたのかというと、自身のアーティスト活動を始めたことが大きなきっかけの1つです。

 自分ではない存在の内面や境遇から表現を生み出す演技やキャラクターソングの歌唱とは違い(勿論、生きた芝居をするためには客観ではなく主観的にキャラクターと感情を重ね合わせることも必要です)、求められるようになった“永塚拓馬”という自己表現。その表現の源泉を豊かにするインプットのために、美術館などの感性を刺激してくれる場所に意識的に通うことが増えました。

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 するとやはり展示物の解説で“マチエール”だったり“グリザイユ”だったり“キアロスクーロ”だったりと、自分が今まで触れてこなかった知らない美術用語をたくさん目にすることになります。それに加えて、主に抽象画で直面する「一見落書きにしか見えないこの絵のどこが凄いんだろうか」問題……。

 そうなるとその作品たちが放つ魅力をより自分が消化吸収できるように絵画を詳しく知りたくなる。ならば実際に自分が絵描きの立場になって描いてみるのが、作者の感情も含めて一番よく理解できるようになるのじゃないか。という何とも単純で短絡的な結論に至りました。

 思いたったが吉日。恐らくフットワークが人一倍軽いであろう僕は、その翌日には書店に赴き初心者向けのデッサンの教科書のようなものを数冊と子供用の自由帳を買って、見様見真似でデッサンの勉強を毎日30分ずつやり始めることにします。

 しかしデッサンを描き始めてから2週間も経つと、元々自分は白黒や精密でリアルな絵画よりも光を大きく捉える印象派の色彩が好きなもので(印象派の画家も勿論精密なデッサンをたくさん勉強していますが……)、早くも黒一色の鉛筆以外の画材を試してみたくなってしまいました。

 そんな時に丁度、Twitter経由で自分が絵を描き始めたことを知った漫画家の種田優太先生に“世界堂”に行かないかというお誘いをいただき「これ幸い」と早速連絡を取って、画材を見に付き添っていただくことになりました。

 そうして3日後に迎えた、種田先生との待ち合わせ当日。前の仕事を終えるともう、待ち合わせ時間ギリギリになってしまっていました。スタジオからは歩いて向かえるほどの距離だったので足早に新宿へと向かうと、看板だらけの新宿大通りの中でも一際存在感を放つ“世界堂”と大きく書かれた看板が遠くに見えてきました。入り口のアーチの上ではビックリ仰天顔のモナリザタペストリーたちも出迎えてくれます。何とか時間内に待ち合わせ場所に到着したので、急いでLINEを確認すると種田先生も時間丁度に着くとのことで、幸いお互い待ち時間なくすんなりと落ち合うことができました。いち段落です。

 ここで「ていうか、そもそも世界堂って何?」という方のために少し説明しておくと、世界堂は“絵描きの聖地”ともいわれるとても大きな画材屋です。今日訪れた新宿本店は、9階建てのビルの1階から5階までが店舗になっていて、1階が文具・事務用品。2階が製図や漫画用画材、関連書籍。3階が水彩画、油彩画、日本画、版画、書道の画材。4階と5階が絵を飾る額縁と、その全てのフロアが画材売り場になっています。流石“絵描きの聖地”、日本有数の物凄い品揃えです。

 とりあえず今回は1階の文具売り場には用がなかったので見るのを飛ばして2階へと上がることに……。エスカレーター横にジャンルレスに販売されている絵画たちを横目に見つつ2階につき、まず目につくのがずらっと並ぶ色鉛筆やクレヨン、カラーペンの棚です。そしてその右側には描き方指南書や人体モデルのポーズ集、絵画の歴史など、様々な角度から見た絵画に関連する書籍たち。やはり、絵筆が要らず気軽に描ける画材と初心者向けの教本が入口の近くに配置されているようでした。そして色鉛筆たちの棚を流し見しながら奥へ奥へと歩みを進めると、棚の端のほうには今勉強しているデッサン用鉛筆もズラッと並べて置かれていました。

 鉛筆に様々な硬度があることは皆さん既にご存じだと思いますが、デッサンはとにかくたくさんの硬度の鉛筆を使います。全体の下書きには適度な硬さの2B、最も暗く濃い影の部分には5Bのように柔らかい鉛筆、ハイライトや細かい質感の表現には3Hのように硬い鉛筆。といった具合です。僕はハイユニの5B・2B・3Hの3本を使って描いているのですが、プロの画家だと繊細な陰影の濃さを表現するために、何と20本以上の硬度の異なる鉛筆を使って描き分けるそうです。写真と見間違うほどのデッサンにはそれだけの濃淡を見分ける観察眼とそれに見合った硬度の鉛筆が必要ということですね。

 圧倒的初心者の自分も、せめて倍の6種類くらいは持っておいた方が良いかなとセット売りされているものを探したのですが、愛用しているハイユニシリーズは22本セットしか売っておらず……。流石に素人にそんな数の鉛筆は使いこなせないと、残念ながら今回は見送ることにしました。

永塚 拓馬(ながつか たくま)
神奈川県出身。10月4日生まれ。趣味は音楽・映画・舞台鑑賞、読書、紅茶、料理、ピアノ、ギター、ダンス、旅行、美術館巡り等々。主な出演作品は『KING OF PRISM byPrettyRhythm』西園寺レオ役、『アイドルマスターSideM』冬美旬役、『ヴィジュアルプリズン』ヴーヴ・エリザベス役、『SK∞エスケーエイト』MIYA役、『遊☆戯☆王SEVENS』安立ヨシオなど、ほか多数で、ラジオ・テレビなどにも出演する。2021年10月6日(水)にアーティストデビューとともに、1st mini album『dance with me』をリリース。

Twitter:@takumanagatsuka
音楽STAFF公式Twitter:@staff_nagatsuka
Youtube:永塚拓馬 Official Music Channel