達成の喜び/前島亜美「まごころコトバ」⑳

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公開日:2022/1/21

前島亜美「まごころコトバ」

 年末年始をゆっくりと過ごしながら、毎年楽しみにしている箱根駅伝を観戦した。

 学生時代に駅伝の特集番組を観たのがきっかけで、お正月には決まって箱根駅伝のテレビ中継を観るようになった。

 密着映像から伝わる選手の努力する姿。どの選手にも、どの大学にも、さまざまな背景があり、これまでの全ての時間と思いを費やした結果を、今まさに出そうと、懸命に走っている姿にいつも心を打たれる。

 強い信念と選手たちの絆にいたく感動し、ひそかに応援するようになった。

 私自身も昔から走るのが好きだった。

 幼い頃は隙あらば走り回り、体を動かすことが好きだったから極真空手も始め、陸上部にも入部したのだと思う。

 空手にハマり試合に出場するようになると、勝つためには体力作りもしなければと実家にルームランナーを設置し、夜な夜な走り込みをしていた。

 芸能界での仕事を始め、空手や陸上の大会などに参加できなくなっても、その分ライブやツアーに向けて体作りをしたり、走り込んだりするのが好きだった。おかげで厳しいスケジュールのライブツアーも楽しんでステージに立てていたと思う。

 駅伝やマラソンの映像を観ていると、いつも思い出すことがある。

 今から8年前の2014年4月。「ホノルルハーフマラソン・ハパルア」の応援キャラクターに就任した。

 大会の応援隊として実際にハワイに行き、ハーフマラソンを走るという仕事。なんて素敵な経験だろうと、決まってからというものとても楽しみにしていた。

 ハーフマラソンの距離は約21km。

 陸上部時代は短距離走をやっていてランニングは10kmも走れば良い方だったため、楽しみな気持ちの反面、走りきれるのかという不安があった。

 大会の日程が近づくにつれ、徐々に走り込みを開始し、走る距離を少しずつ伸ばしていった。

 ランニングは苦しい時間が長いが、その分終わったあとの達成感や爽快感は、ほかでは得られないものだと感じる。余計なことを考えず、ただひたすらに自分と戦うあの時間が好きだ。

 仕事の合間をぬい行った練習も、一度に21kmまでは走ることができず、焦りも抱えたままハワイへと向かった。

 迎えた当日、薄暗い早朝から準備運動をしてスタート地点に向かった。想像よりも多くの人が参加していて、会場は活気熱気といよいよ始まるのだという高揚感に溢れていた。

 初めての大きなマラソン大会、ペース配分や位置の取り方などなにもわからなかったが、会場の雰囲気にも背中を押され、ただただ走ることが楽しく、突き進んでいった。

 カラカウア大通りのデューク・カハナモク像からスタートし、アラモアナ通りやダウンタウンを走り、ダイヤモンドヘッドや海を眺めながら走っていくコース。

 マラソン大会の空気感がとても新鮮で、綺麗な景色に圧倒されながら5km地点まではあっという間に走れていた。

 感動しつつ楽しく走っていたが8kmにも差し掛かると、じんとした足の痛みが出てきた。

 いつもは孤独な自分との戦いとなるが、大会となると多くの方と気持ちを共有しているようで、この辛ささえも楽しく感じることができた。

 辛い中で特に力になったのは、現地の方の活気ある応援だった。すれ違えばハイタッチをし、手作りのボードでの応援もあり、中間地点ではブラスバンドの演奏もあった。

 時折、雨に打たれながらも、その後にかかる虹に感動し、ただひたすらに足を進めた。

 ランナーの方とも会話をし、互いに頑張りましょうと声をかけながら迎えた残り1km。

 アドレナリンで痛みも消え、21kmを走りきれたのだという感動の中、無事にゴールした。

 記録は2時間22分。マラソンの全体の年代別で5位という結果だった。

 完走の証としてもらったメダルがとても嬉しかった。苦しい戦いの末に得られたもの、より尊く、重く、大切に感じた。

 大声援の中をゴールした時の喜びが忘れられない。

 大きな達成感と感動、そして自分への驚きと、誇らしさ。

 そして日頃のランニングでは得られない会場の雰囲気。誰かと走る楽しさや、かけがえのない喜びを教えてもらった。

 思い出すたびに、なんて素晴らしい経験をさせてもらったのだろうと思う。

 世の中が落ち着いた時に、再びマラソン大会に参加し、挑戦してみたいと思う。そしていつかまた、ホノルルにも足を運んでみたい。

第21回に続く

まえしま・あみ
1997年11月22日生まれ、埼玉県出身。2010年にアイドルグループのメンバーとしてデビュー。2017年にグループを卒業し、舞台やバラエティ番組などで活躍。またアプリゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(2017年)でメインキャストの声を演じ、以後声優としても活動中。

Twitter:@_maeshima_ami
オフィシャルファンクラブ:https://maeshima-ami.jp/

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