THIS IS 平島太郎/オズワルド伊藤の『一旦書かせて頂きます』㉖

小説・エッセイ

公開日:2022/1/21

オズワルド伊藤
撮影=島本絵梨佳

あらかじめ断っておくが、本日は我々と一蓮托生でもある、構成作家・平島太郎という男について書かせて頂く。

そこで、まずは平島太郎を語るに当たって知っておいて欲しいことをいくつか説明させて頂くとしよう。

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なにを偉そうにと思われること必至であるが、芸人の売れ方にはいくつか種類があるように感じる。

たかだか10年と言われちまえばそれまでだが、一応それなりにこの10年を振り返り、売れていった者、売れかけている者、売れなかった者、辞めていった者、様々な芸人を見てきた上で伊藤ちゃんはある事実に気が付いちゃったのだ。そう。気が付いちゃったのだ。

この世には、どう考えても売れるのに時間がかかる芸人がいるということ。

なるほどと思えた方には花束を、なんだそんなことかと思った方には九頭龍閃(くずりゅうせん。るろうに剣心より剣心の必殺技。超痛そう)を。

全員そうだろと思った方もそれは違うぜベイビーちゃん。

わかりやすくイメージしてみて欲しいのだが、芸人が面白いと思ってることをひとつの円とし、世間の方々が受け止めてくれるキャパをひとつの円とした時、この2つの円が重なる瞬間を我々の世界では「売れる」と表現するのだと思うのである。

自分が面白いと思うことが世間にも伝わるように、少しだけわかりやすくしたり、衣装を変えてみたり、それぞれの試行錯誤が繰り返されていく。

ただ中には、デビューしたその時から自分が面白いと思っていること、または完全に狙って当てにいってその円を重ねることが出来る者もいる。これが信じられないくらいのスピードで売れる芸人。ちなみにこれに当てはまる芸人は一握りオブ一握り。

そしてそれとは逆に、世間の円から大分離れたところからスタートする者、もしくはもう狙うとか狙わないとかではなく、こうというやり方でしか生きていけない芸人もいる。こちらが前述の売れるのに時間がかかる芸人である。

もちろんこれに当たる芸人のなかにも、時間はかかれど売れていった芸人は山ほどいるが、当然の如く、その現実に耐えられずに辞めていく芸人も腐るほどいる。本当は凄く凄く凄く凄く面白いのに、誰にも見つからず誰にも誉められず、ただただ自信を失ってしまう芸人もそりゃいるのである。それはとてもとてもとてもとても悲しい。

そんな芸人を見つけちゃあ、暖かい毛布と居場所を与えてくれる人物こそが我らが平島太郎なのである。

一昨年のM-1チャンピオンであるマヂカルラブリーさんを始め、キングオブコントチャンピオンの空気階段、THE Wチャンピオンのオダウエダ、並びで言うのも気がひけるがかく言う我々オズワルドもこの平島太郎という男と深く関わりのある芸人なのだ。

平島さんは本当に、僕らでさえそんなの捨ててきなさいと言ってしまいそうな芸人も拾ってくる。マヂカルラブリーさんは平島さんの先輩だが、空気階段もオダウエダもオズワルドも、まだまだ玄関に上げられないくらい泥まみれの段階で拾ってもらっている。

そんな我々でも、いやさすがに汚すぎると感じる芸人も拾ってくるのだ。

だから同期の紹介で出たライブで自分たちが平島さんに初めて出会った時、ライブで全然ウケねえし、誰がどう見ても売れるわけなんかなかった僕らを面白いからと連れて帰ろうとする平島さんに対して、こういう人をお笑い変態と言うのだと感じたのを覚えている。あと打ち上げで泥のように酔っ払う彼を見て、この人もまた、お笑いの才能に全ベットしているダメ人間かもしれないと思ったのも覚えている。

呆れた男であるが、信じがたいのはその選球眼。平島さんが拾ってきた芸人はもれなく全員面白いのである。

この的中率は正直普通ではない。

構成作家とは、読んで字の如くライブやTVの構成を考えたり、ネタについてアドバイスをしたりということが主になるとは思うのだが、平島さんはそれプラス、自分が仕事をしたい芸人を自分で選んで連れてくる。この頻度がエグい。更になによりも、彷徨う若手芸人に、このままでいいんだと肩を抱いてくれる。これが平島太郎の元に様々な泥芸人が集う最大の理由かもしれない。

平島さんは自分に正直で嫌な仕事はしない。面白いと思う芸人も自分の中に確かな基準がある。そして彼自身もめっちゃ面白い。そしてめっちゃ変な人。そしてめっちゃめっちゃ変な人はまじ確定。

どの仕事でもそうかもしれないが、仕事を選ぶ優先順位として、やりがいを1番にあげられる人。これは実はなかなか難しい。平島さんは、なんならこれオンリーで生きてる人なのである。

これからも平島さんはわけの分からない若手芸人を拾ってきては家に連れ帰るだろう。そうやって拾ってきた泥まみれの、なんならクソまみれの芸人と過ごしている彼の顔はいつも笑顔で溢れている。たくさんの泥水出身芸人が、あなたに心から感謝していることには気づかずに。

だから我々は、少なくとも僕個人としては、いつか自分たちの冠番組が出来るようになった時、クレジットに平島太郎の名前を刻みたいと、勝手に頑張る理由に組み込ませて頂いているのである。

最後に、もう1人東京吉本の若手のビッグファザーとなる山田ナビスコという作家さんもいるのだが、この人についても近日公開ということで。

一旦辞めさせて頂きます。

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オズワルド 伊藤俊介(いとうしゅんすけ)
1989年生まれ。千葉県出身。2014年11月、畠中悠とオズワルドを結成。M-1グランプリ2019、2020、2021ファイナリスト。


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