英米で大ベストセラー。若き俊英が描く、現代ならではのミステリー『自由研究には向かない殺人』/佐藤日向の#砂糖図書館㊱

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公開日:2022/2/5

佐藤日向

子どもの頃に課された「自由研究」という課題は、当時の私にとって一番難しい宿題だった。まずトピックを探すことが難しく、何に興味があるのかも分からなかったが、今ならもっとユニークなトピックを見つけられるだろう。

でも、そう思えるのもきっと、私が積み重ねてきた経験があるからだ。

今回私が紹介するのは、ホリー・ジャクソン氏の『自由研究には向かない殺人』という作品だ。初めて自分と近い年代の作家さんの作品を読んだのだが、なんと本作がジャクソン氏のデビュー作である。

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イギリスの小さな町に住む高校三年生のピップは、自由研究で得られる資格(EPQ)で5年前の少女が失踪した事件をトピックにすることに決める。その事件というのは少女の交際相手である少年が遺体で発見され、彼が少女を殺害して自殺したと警察が発表することで収束した。しかしピップは、少年の無実を証明するため、自由研究を利用して”真犯人”を探し出す。

本作を読み終えたあと、思わず重たいため息が出た。展開が二転三転し、真犯人が気になって仕方がなくなる。最後の方は思わず息を呑みながらページを捲っていた。本作の見どころはやはり、現代に特化した内容だと思う。ピップはSNSを駆使して調査をしたり、証拠が散らばっているのもネットの海だったりと、今の時代に寄り添っている作品だ。

中でも一番恐怖を覚えたのは一度報道されたニュースは見出しの印象で報道された人の善悪が決まってしまい、中には記事の内容を読まないで批判する人もいる、ということだった。これこそ、ネットが普及したからこそ起こる現象だろう。

報道では、その人の普段の生活や性格は書かずに、事件に関連する事柄だけ世に放たれてしまう。そうなると、報道の内容のみでその人が完全に悪だと判断し、批判するような文章を投稿したり、自分の意見を交えて罵倒のような投稿をする場合もある。本作の最後でEPQをマスコミや生徒の前でピップが発表するシーンでは、まさにこのことについて言及している。

どれだけ良い人だと思っていても、その人の裏の顔は当事者が教えてくれない限り分からないし、「死人に口無し」という言葉通り、死後に殺人鬼だと罵られても釈明することはできない。ひとつの情報だけを鵜呑みにして意見を述べるという行為がいかに愚かで、他者を傷つけるかがヒシヒシと伝わってくる物語だった。

子どもの頃、「大人が言うことは絶対に守らなければいけない。だって大人が言うことは全部正しいから」――そんな風に思っていた。でも実際20歳を過ぎて、あの頃模範としていた”正しい”を創る大人側になってみると、大人は子ども以上に脆くて必死に足掻いているのではないかと感じる。子どもの頃のように純粋に真っ直ぐ進めなくなったぶん、大人は怖がりになるのかもしれない。本作に入り混じるのは、子どもの純粋さと素直になれなくなってしまった大人たちの想い。それらが生み出す青春ミステリー、是非手に取って読んで頂きたい。

さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして、メジャーデビュー。2014年3月に卒業後、声優としての活動をスタート。TVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)のほか、映像、舞台でも活躍中。