寺島惇太「拝啓、日陰から」⑤陰キャと音楽

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公開日:2022/2/12

寺島惇太

 陰キャをこじらせていた幼少期(いや、いまだってそうだろ! とツッコまれればそうですけど)、すごく夢中になっていたもののひとつが「音楽」です。当時は音楽番組がたくさんあって、毎週欠かさずにチェックしていました。すると、自分のなかに芽生えるわけです。「あ、ぼくも音楽やってみたい!」という羨望のような気持ちが。

 中学生の頃に大ブームだったのは青春パンクロックでした。175Rやモンパチのようなインディーズバンドが次々とブレイクしていった時代で、ぼくの視線はもう彼らに釘付け。そしてなにを勘違いしたのか、ぼくもバンドマンになりたいと思うようになっていきました。バンドでボーカルを務め、下北あたりのライブハウスで歌う。そんな青春を送りたくて仕方がない。

 そんな気持ちが昂ぶっていくと同時に、「売れているものへの反抗心」も生まれます。これこそ陰キャ特有のもの。人と違っていることこそが美徳で、売れているものになんて興味がない。クラスメイトたちがメジャーアーティストに歓喜している横で、ぼくはひとり「ファルセットとかってダサくない? やっぱり歌ってのはがなりあげてなんぼでしょ」とひねくれていました。ハマっているバンドの曲を友人に聴かせて、「これ誰なの?」なんて反応が返ってきたら万々歳。凡人には理解できない高尚な音楽を、ぼくだけが知っているのだという愉悦に浸っていました。でも中にはあまり良さがわからないけど「この尖ってるバンドが好きって言っておけばセンスあると思われるかも!」という理由で好みじゃないのに聴いてる音楽もあったりして…。ただただ「人と違う」ということにこだわりすぎるあまり、音楽迷子になっていたわけです。

 そんな迷走をずっと続けていたぼくも、なんの因果か、実はアーティストデビューしています。2021 年12月には3rdミニアルバムを発売したばかりでマイペースに楽しく活動させていただいております。

 念願の思春期の頃からの夢の1つを叶えたわけなんですが…このアーティスト活動においても陰キャを爆発させています。

 それは歌っているとき。そう、歌うときの仕草がとにかく恥ずかしいんです。棒立ちのままで歌うわけにはいかないので、ステージ上ではさまざまなアクションを取り入れます。サビでは手を上げたり、ときには客席を指差したり……。でも、その一つひとつのアクションをするときに、もうひとりのぼくが現場を俯瞰で見ているんです。

 お前、いまなんで指差したの? それ、かっこいいと思ってる? そのフリ、お客さんにダサって思われてるんじゃない? 大丈夫?

 うるさいうるさい、うるさーーーい!!!

 ええ、わかってるんです。わざわざぼくの歌を聴きに来ているお客さんは、「寺島、ダサくない?」なんて意地悪なことを思ったりしない、と。それでも、もうひとりの自分の目がとにかく厳しい。陰キャのくせに格好つけている自分を見つけると、猛烈に恥ずかしくなってしまう。結果、ぼくはスタンドマイクで歌うようになりました。これならば動き回らなくて済むし、なんとか様になる。涙ぐましい模索の末に出た結論です。

 でも、今回のミニアルバムの楽曲については今まで以上に自信があります! 「あの人に制作をお願いしたいけど、断られたらどうしよう……」という陰キャならではのウダウダした悩みグセをかなぐり捨てて、ご一緒したい人に思い切って声をかけました。そうして出来上がったものは、すべて納得できるものばかり。だから早く、みなさんにお届けしたいと思って制作しました。

 もしもステージ上で歌うぼくを目にする機会があったら、温かく見守ってくださいね。くれぐれも、「あ、寺島が格好つけてる」「いまのフリも自分で考えたのかな」なんて思わないように! よろしくお願いします!

【著者プロフィール】
てらしま・じゅんた●1988年8月11日、長野県生まれ。2009年に声優デビュー。『アニメガタリズ』『TSUKIPRO THE ANIMATION』『アイドルマスター SideM』『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-』『A3!』といったテレビアニメを中心に活動する他、ゲームやドラマCD、映画の吹き替えなどでも活躍。また、2019年には『29+1 -MISo-』でアーティストデビューも果たす。2021年12月には3rdミニアルバムも発売。
公式Twitter:https://twitter.com/juntaterashima3
公式YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCDuCCq1gONtzb3YGFUtuwTw

構成協力=五十嵐 大

<第6回に続く>

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