「Artemis/アルテミス (Group Yggdrasill)」草摩由希さん(前編)/歌舞伎町モラトリアム①

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更新日:2022/6/20

 自身もホストクラブに通いながらも、社会学として歌舞伎町を研究する佐々木チワワ。そんなチワワが歌舞伎町で人気や知名度を持つさまざまな「エモい」ホストと対談し、現代のホストクラブについて語りつくす新連載、「歌舞伎町モラトリアム」。

 第1回は現在歌舞伎町のホストクラブ『Artemis/アルテミス (Group Yggdrasill)』の代表取締役社長を務める、月間4600万、年間1億2000万の売り上げを誇るホスト草摩由希さん。その独特な世界観と熱狂的な支持を集めることから「歌舞伎町の最後の砦」とも言われる草摩さんと共に、現在の歌舞伎町の価値と消費について対談しました。

<対談者プロフィール>
草摩由希(そうま・ゆき)/1987年10月1日生まれ。177㎝。O型。19歳の時に秋葉原の路上で受けた街頭インタビューでの「童貞も守れない男になにも守れないんですよ」という名言がTwitterをはじめSNSで話題を集める。大学卒業後、2013年よりホスト業界に入り、2018年8月には月間売上4600万を達成するなど数々の伝説を持つ。現在は歌舞伎町のホストクラブ『Artemis/アルテミス (Group Yggdrasill)』『BARハピネス』代表取締役社長。テレビや雑誌などのメディア出演も多い歌舞伎町の超有名ホスト。Twitter: @yukisouma_hal

SNSによるホストの一般化と、“宗教営業”と称される独自の手法

佐々木:「草摩さんがホストを始められた時と今って、業界の動きは違いますか?」

草摩:「最近はSNSをはじめとしたメディア展開が強くなって、歌舞伎町の外の人にもホストの世界を知ってもらえる機会が増えましたね。それによって、良いホストも悪いホストも口コミがすぐ広まるので、本当に価値のあるホストがより支持を得られるようになったなと」

佐々木:「初めて行ったホストクラブで『そういうもんなんだ』とならずに、すぐに調べられますもんね。ある意味洗脳はしづらくなっている…笑」

草摩:「SNSやメディアの影響でホストクラブを知って、初めて会いに来てくれるお客様が増えましたね」

佐々木:「そう思うと、本当にその女の子のこの街での価値観は担当次第ですね」

佐々木:「ホストクラブでは色恋営業や友達営業などと呼ばれる営業スタイルが一般的ですが、草摩さんは周囲から“宗教営業”と言われているそうで」

草摩:「宗教って、例えばキリストは死んだ3日後に生き返るとか、そういう奇跡が起きて、ついていけば何かあると思わせることができたから支持されたわけで。そう思うとホストとして沢山の女の子から支持を受けるには“キリストのようにならなきゃいけない”という思いはありますね。まず自分がお客様に何を与えられるかから考え始めるというか。僕は生きてきた中で今、自分の中で芯が生まれているので、それをまず関わった人に与えたいなと。例えばどんなに小さなことでも、人が何かをしてくれたら行動で返す。小さいけど与えられる価値を考えていて。あとは奇跡で言うと僕、日本で一番有名な童貞みたいな感じでSNSでバズったんですけど…」

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佐々木:「テレビの街頭インタビューの『童貞も守れない男に何も守れないんですよ』ってやつですね」

草摩:「そうそう。童貞が売れるって、まぁ奇跡じゃないですか。そういう奇跡に惹かれた子たちが、僕のもとに集まってきたのが最初でした」

佐々木:「そう思うと担当にしたホストの考え方や価値観って本当にある意味、宗教に近いです。それを指針にして生きたりとか、自分の人生観が変わると思うとすごい腑に落ちます。色恋よりもそういう教えとか思想に共感するっていうのは強い」

草摩:「女の子にプレゼントを選ぶ時間とかって、目に見えないから雑にすることもできるけど、めちゃくちゃ時間と気持ちをかけて大事にすることもできる。そういう形には残らないけど、お客様と僕との思い出に残せるものを作ろうと思ってホストしてますね」

佐々木:「その結果がバースデーイベントで驚異のセブンデイズですもんね。7日間、違う女の子がシャンパンタワーをするという…」

<用語解説>
色恋営業:接客中にイチャイチャしたり「好き」「かわいい」など恋人同士のように接する営業。ただし「付き合ってほしい」などの肝心の言葉はない。
友達営業:恋愛要素なしで、普通の友達のようにワイワイ飲んだり悩み相談に乗ったりする営業方法。
バースデーイベント:ホストの誕生日を祝うイベント。ホストにとっては一番の見せ場でもある。通常は1~2日、長くても3日ほどのことが多く、シャンパンタワーが建てられる。

「私は100万円の価値だよ」

佐々木:「いろんな女の子が様々なものを求めてくると思うのですが、印象的な子はいますか?」

草摩:「そうですね…(少し考えて)。歌舞伎町でお金としてだけ見続けられてきた女の子がいたんです。すごく可愛くてお金も稼げる。でも、その子は彼女の価値をお金でしか測れないホストにしか出会ってこなかったみたいでした。指名し始めで“私は100万円使えるよ、それくらい価値のある女の子だよ”っていきなり札束を持ってきたんです。でも僕は、自分の価値を知ってもらってから、お金を使ってほしい。だから最初は最低料金で十分だと思っているし、それでめちゃくちゃ楽しませることができる自信もある。2か月くらい通えるように持ってきたお金を“通うなら、このペースで来てね”って返したんですよ。“100万円使えるワタシ、それが私の価値だよ”って彼女は来たけれど、“君の価値は僕が決めるし、僕の価値は君にこれから決めてもらうから”って。それでまず毎日来てもらって」

佐々木:「自分の価値をお金でしか測れなかった彼女を変えていこうとしたんですね…」

草摩:「その子は最終的に”由希さんと来世は一緒になる”って言って未来に投資してましたね笑」

女性性と承認欲求

佐々木:「ホストクラブでの価値という点で、自分の“女性性”に対する価値と数字がホスクラは難しいと思っていて。女の子としての価値を認めてほしいけど、女性性を一方的に消費されたくないみたいな」

草摩:「出会って間もないと女性性が先行して見られがちで。特にこの街は数字とか使える金額がステータスになってしまいますし」

佐々木:「”俺の姫、月300万稼げるんだぜ!”とか自慢してくるようなホストもいますもんね…」

草摩:「そうですね。僕としてはその子がいくら稼げるかより、その子の好きな色を知っていた方がいいと思います。そういうお金じゃない中身が、結局女の子が承認してほしい部分なのかなって」

佐々木:「お金で価値を生めるからこそ、お金じゃないところを求めたいけど、結局金額が手っ取り早いから自分から歌舞伎町の公式に乗ってしまったり…」

草摩:「お金として見て価値を図ることを“それが愛だよ”みたいな都合のいいことに当てはめちゃうのが歌舞伎町ですからね…」

草摩:「そもそも今の世の中って、自分の価値を認めてくれたり承認してもらえる場がそもそもないじゃないですか。特に女性は」

佐々木:「確かに“女性は普段、生きているだけで消費される絶望があるから、客として遊びたかった”って女の子もいましたね」

草摩:「そんな中、歌舞伎町のホストクラブに足を一歩踏み入れたら、それがもうその世界で完結してるので、居心地が良くてなかなか出づらい。本当に“モラトリアム”だなと」

佐々木:「その世界で相手をお金で動かそうとしたり、自分の価値をお金で証明しようとしたりしていく中で、お金を介しているとしても、ちゃんとしたコミュニケーションを身に着けていくんですかね」

草摩:「そういう経験を経て、お金とかホストとか自分に対しての考えが自分の中に芯としてできた時が、モラトリアム卒業の時なんじゃないですかね」

佐々木:「自分に軸がない子が歌舞伎町に来て、流されて、もまれてもまれて、自分の人生を見つけていくんでしょうね」

草摩:「今は本当にSNSの“いいね”の数がステータスになりがちだと思うんです。歌舞伎町はその文化と非常に親和性が高い。居心地が良くて、“私の居場所として認めてくれる”というか。僕の中の幸せの一つの答えが“居場所がある”ことだったので」

佐々木:「そう思うと、居場所とか理解者とか、最終的にはお金で買えないものをお金で買おうとする人しか歌舞伎町に残らないかもしれないですね」

<第2回へ続く>

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佐々木チワワ(ささき・ちわわ)/2000年生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)在学中。10代から歌舞伎町に出入りし、フィールドワークと自身のアクションリサーチをもとに「歌舞伎町の社会学」を研究する。歌舞伎町の文化とZ世代にフォーカスした記事を多数執筆。現在、初の書籍『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』(扶桑社)が好評発売中。
Twitter:@chiwawa_sasaki