手放す身軽さ/前島亜美「まごころコトバ」㉓

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公開日:2022/3/4

前島亜美「まごころコトバ」

 1月から2月の末まで、舞台公演のため地方をまわっていた。3週間の旅のあと、一時帰宅し、また2週間の旅。

 昔から遠征の仕事は度々あったが、こんなにも期間が長いのは初めてで、荷造りにとても時間がかかった。

 なにから持っていけばいいんだろう。心配性の私は必要より少し多く持っていかないと落ち着かず、家にある一番大きなスーツケースにいっぱいの荷物を詰めて最初の3週間に旅立った。

 ホテルでの生活。各地を転々とする旅だったため、同じホテルに長く滞在することがほとんどなく、ホテルにチェックインをして、荷物を広げてはすぐにしまい、また別の地へと移動を繰り返しながら生活を送っていた。

 しばらく生活してみて、「これはいらないな」「今は必要ないな」というものが出てきた。ダンボールを購入し、いくつかの荷物をまとめ家に送り返すことにした。

 移動の際スーツケースを持って階段などを上がる度に、いっぱいの荷物に苦労していたので、荷物が減ること、無駄を減らせたということに喜びと爽快さを覚えた。

 抱えていたものがなくなるというのは気持ちの良いことだなと、スッキリとした気持ちになった。

 ホテルには生活に必要な最低限のものしかない。そのシンプルさがとても潔く、そして心地よいものだと感じた。

 早起きして朝食をとる。仕事に出かける。帰宅して浴槽にゆっくりつかり、しっかりとケアをして、ベッドに入る。

 掃除、洗濯、栄養、睡眠。ただシンプルに生きる。生活の基礎であるこれらを丁寧にこなしていくことがとても大切なことなんだと痛感した。

 必要なことだけを次々にこなすと、毎日をテキパキと過ごすことができた。

 手で持ち運べるだけの荷物で、スーツケースひとつで私は生きていけるのだと知った時、頭に浮かんだのは家にあるたくさんの物たちのことだった。

 よし。断捨離をしよう。

 家に帰って最初にやることを決めた。

 3週間の旅を終え、久しぶりに東京に戻った時は不思議な感覚だった。

 本当に東京帰ってこられたのか実感がなく、どこかふわふわした気持ちのまま家のドアを開けた。

 久しぶりの家。全てがしみるようなあたたかさがあった。

 普段なにげなく生活していたその空間は、あらゆる癒しや好きで溢れていて、家がくれる安心感というのは凄まじいものなのだと驚いた。

 シンプルなホテルでの生活もとても好きになったが、自分で作ったこの空間がやはり一番落ち着くのだと、旅に出たからこそ改めて気づけたことだった。

 この好きな空間を、よりシンプルにしていこう。

 休日、早速、断捨離を始めた。読み終わった本、使っていなかった加湿器、着なくなっていた洋服。どんどんと整理していくと、とても心が軽くなる気がした。

 私は、昔から物を捨てられない人だった。

 必要がないと思った物は捨てることができるが、例えば大切な友人からもらったプレゼントなど、中身はもちろん、それを包んだ包装紙やリボン、紙袋まで大切にとっておきたいタイプだった。

“この全てを大切に覚えていたい”と、喜びをくれた物を捨てるということができなかった。

 しかし、どんどんと溜まっていくクローゼットを眺める度に、いい加減に整理しなくてはと思っている自分もいた。

 物として思い出を置いておくのではなく、心のなかに、きちんとしまうようにしよう。

 受け取った時の気持ち、あの時の喜び。

 物に頼るのではなく、心に大切にしまうことで“覚えておこう”とより強く思えるのではないか。

 色褪せないように、気持ちを心に記憶する。心が育つことでもあるように感じた。

 まだ使うかもしれない物、使えないけれど手放せなかった物、家にはいろんな物があったが、思いきって整理することで、すっきりとした心で、次の新たな出会いを楽しみに思うことができた。

 なにかを手放すということは、心が軽くなることだと思った。そして、残った物たちをより大切にすることができるのだとも。

 約2カ月にわたったホテルでの長期生活で、生きるために、健康のために、“ほんとうに大切な物はなにか”を知ることができた。

 貴重な機会と有意義な休日に感謝して、シンプルでありながら好きに溢れた生活を目指していきたい。

第24回に続く

まえしま・あみ
1997年11月22日生まれ、埼玉県出身。2010年にアイドルグループのメンバーとしてデビュー。2017年にグループを卒業し、舞台やバラエティ番組などで活躍。またアプリゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(2017年)でメインキャストの声を演じ、以後声優としても活動中。

Twitter:@_maeshima_ami
オフィシャルファンクラブ:https://maeshima-ami.jp/

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