『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』『もう別れてもいいですか』 出会いと別れの季節にオススメの一冊【ダ・ヴィンチWeb推し本+】

文芸・カルチャー

更新日:2022/3/7

ダ・ヴィンチWeb編集部推し本バナー

ダ・ヴィンチWeb編集部メンバーが、月ごとのテーマでオススメの書籍をセレクトする、推し本“+”。3月のテーマは、「出会いと別れの季節におススメの一冊」です。

引越し理由は十人十色…。提案されるのは“吉祥寺以外”『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』(マキヒロチ/講談社)

『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』(マキヒロチ/講談社)
『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』(マキヒロチ/講談社)

 春の夕方の空気が切なさをまとっているような気がするのは、私だけだろうか。「出会いと別れ」を実感するとき、『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』を読んでみると、人生いろいろと思えてほっとする。本作は、クセはあるが情に厚い双子姉妹が営む不動産屋に、なにかしらワケがあって引越しを考えている人たちが登場する。決まって「吉祥寺に住みたい」と訪れるのだが、姉妹は全く違う(しかも吉祥寺から遠い)街を提案する。ただ闇雲にその場所を選んでいるのではない。お客との会話から2人は悟って、一歩踏み出せる環境(街)を勧める。図らずもお客たちは“この街好きになれそう”と、気持ちを新たに引越しを決意するのだ。実際に住んだ、通った街で過ごした春のあの日を思い出し感傷に浸る一興もあり!(中川寛子/ダ・ヴィンチWeb副編集長)


卒業シーズンにあの頃の自分を思い出す『ありがとう、さようなら』(瀬尾まいこ/KADOKAWA)

『ありがとう、さようなら』(瀬尾まいこ/KADOKAWA)
『ありがとう、さようなら』(瀬尾まいこ/KADOKAWA)

 桜の便りが届き始める今ごろは、ふと卒業式を思い出して隠れおセンチになっていることがある。なかでも、幸いなことに先生と友人に恵まれた中学時代のことが多い。本書は著者の瀬尾まいこさんが中学校教員をされていた時のエピソードが綴られたエッセイ。ある日の面白い出来事や体育祭など行事の話が、飾らない日記のような文体で綴られている。読んでいると、わが脳内の裏卒アル的な部分が刺激され、次々と黒い歴史が浮かんできて悶絶してしまった。と同時に、あいつにありがとうって言ってなかったなとか、あの子にちゃんとさようならって言ったかなとか、かなり美化した記憶も呼び起こされた。年に一度くらい、こんな感情の体操をしてみるのもいいなと思った。(坂西宣輝)


趣味でも実用でも万能な最強の鉾『ひとりぶんのレンチンスパイスカレー』(印度カリー子/山と溪谷社)

『ひとりぶんのレンチンスパイスカレー』(印度カリー子/山と溪谷社)
『ひとりぶんのレンチンスパイスカレー』(印度カリー子/山と溪谷社)

 出会いと別れの季節にオススメの本で、なぜカレー? と思われるかもしれない。落ち着いて聞いてほしい。新生活時点で本書を読んで実践しておけば、「趣味は? 休日家でなにしてる?」という問いへの答えもバッチリですよ! レンチンでカレーが作れるうえに、しっかりスパイスを活用した本格的な味わいを楽しめるレシピ集。ターメリック、クミン、コリアンダーの基本スパイス3種×電子レンジで繰り出されるカレーは手順の簡便さに比べ想像以上で、料理初心者であればあるほどきっと、老若男女全方位に話したくなるだろう。最近は世界的におこもりということもあり、家で自分でおいしいものを食べられる、という趣味はQOLを上げ、心を豊かにする。自分も相手も幸せにする話題はあればあるほどいい。(遠藤摩利江)



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「読書」という趣味との貴重な出会い『読書嫌いのための図書室案内』(青谷真未/早川書房)

『読書嫌いのための図書室案内』(青谷真未/出版社)
『読書嫌いのための図書室案内』(青谷真未/早川書房)

 春は人との出会いと別れ、そして新しい目標や趣味との出会いのシーズンでもあると思う。本作は、4月に高校2年生になったばかりの主人公が、読書嫌いにもかかわらず図書委員になったばっかりに、同じクラスの本好き女子とともに図書新聞を再刊させることを任じられる物語。「読書が苦手」という人に対し、読書好きはなかなか有効なプレゼンやそもそもの“正しい”スタンスが取りにくい、というのが個人的な実感としてあるが、本作はなんとも楽しく奥深い「読書のススメ」を繰り出してくる。実在の名作と登場人物の抱える事情を見事にからめ、気付けばそれらも読みたくなってしまう。主人公が読書に心を開くシーンで、この作品に出会えた喜びを感じる1冊。(宗田昌子)


繰り返す逡巡と、ひとつの重大な決断『もう別れてもいいですか』(垣谷美雨/中央公論新社)

『もう別れてもいいですか』(垣谷美雨/中央公論新社)
『もう別れてもいいですか』(垣谷美雨/中央公論新社)

 昨年映画化された『老後の資金がありません!』などで知られる垣谷美雨さんの最新作。ふたりの娘が独立し、夫と暮らす58歳の澄子は、いわゆる「モラハラ」を体現しているかのような夫の言動に耐えかね、離婚したいと強く願うが、金銭面や世間体を気にしてなかなか踏み切れない。「もう我慢できない」「でも、やっぱり…」を何度も繰り返す澄子の心理描写に、リアリティがある。変化することは、怖さを伴う。決断を下すことは、簡単じゃない。夫婦の問題を扱っている作品だが、何かを変えたいと願う読み手を後押ししてくれそうな1冊でもあるように感じた。(清水大輔/ダ・ヴィンチWeb編集長)

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