「優勝は目指さない」会見で放った衝撃の一言。そこにある新庄流の真意とは?/スリルライフ

スポーツ・科学

公開日:2022/3/27

 「変人・宇宙人と呼ばれても気にしない」「「神頼み」なんて絶対しない」他人の目を気にせず、キラキラした瞳でまっすぐ前を見る新庄剛志のカッコよさは、並々ならぬ努力と独自の人生哲学に支えられたものでした。

 『スリルライフ』は、2021年11月に北海道日本ハムファイターズの監督に就任した新庄剛志さんが、監督就任後に刊行した初の書籍です。

 阪神タイガースからMLBに渡ってワールドシリーズ出場やメジャー4番、満塁本塁打など数々の「日本人初」を達成し、帰国後に入団した北海道日本ハムファイターズでのプレーやパフォーマンスも今や伝説となっている新庄さん。監督になるまでのこと、なってからのこと、自分自身についてをすべて本音で語った新庄語録をお楽しみください!

※本作品は新庄剛志著の『スリルライフ』から一部抜粋・編集しました

スリルライフ
『スリルライフ』(新庄剛志/マガジンハウス)

「優勝」よりも大事なこと

 監督就任記者会見で「優勝は目指しません」と言ったら、会場がどよめいた。僕にとってそれは予想どおりの反応だった。記者たちは、僕が「チーム一丸となって優勝を目指します!」と言うことを予想していたはずだ。それが新監督の定番だし、チームへのメッセージだ。

 でも僕はその定番を使わず、むしろ逆のことを言った。イレギュラーな発言でみんなを驚かせたかったわけではない。「優勝を目指さない」というのは、僕の本音。思っていたことをそのまま口にしただけだ。

 ファイターズは2021年シーズンまで3年連続でBクラスのチームだ。その原因ははっきりしている。優勝争いをするための戦力が足りていないからだ。そんなチームをコーチ経験すらない監督が率いて、いきなり優勝できるほどプロ野球は甘くないと思っている。戦力の底上げが必要だし、僕自身も監督として学ぶべき時間が必要だ。

 戦力の底上げは、できると思っている。僕が見る限り、ファイターズにはポテンシャルの高い選手がたくさんいる。でもそういう選手たちが思うように能力を発揮できず、チームの力になっていない。まずは彼らの隠れた能力を引き出し、引き上げることが自分の仕事になる。

 もちろんそれは簡単なことではない。選手本人が意識を変え、肉体や技術を鍛えなければならない。すぐにできることもあるだろうし、時間がかかることもある。変えたい、変わりたいと思い、その習得に励み、身につけ、実践で使えるようになるには、半年や1年はかかるだろう。

 監督としての僕も同じだ。すぐにチームを勝たせるような指揮ができるとは思っていない。僕は1年間、監督になる気満々で試合を見続け、考えたことをスマートフォンに箇条書きでメモしてきた。

 「ファールを打つな。一球で仕留める気持ちで」
 「調子が上がってこない場合はバットを置いて頭を使え」
 「相手チームに神経を使わせるチームにしたい」
 「ミスした選手を選手が怒る。活躍したら笑顔で喜ぶ」

 1万字以上あるそのメモには、チームのあり方、バッティングや走塁、守備の技術論、精神論、練習方法まで細かく書いてある。なかには現在の野球界の常識とはかけ離れたメモもたくさんある。

「思いつき作戦」をどんどん試す

 僕が野球を始めたころ、一番バッターは足の速い選手で、二番はバントのうまい器用な選手、四番はホームランバッターと決まっていた。先発ピッチャーは150球から160球投げても完投するのが当然で、彼らは中5日でどんどん登板していた。

 しかし常識は、どんどん変わっている。いちばんいいバッターを二番に置く打順が最近の流行だし、先発投手は100球を目処に交代させ、リリーフピッチャーにつなぐのが最近の野球のセオリーだ。

 最近では、リリーフ投手を先発させ、打者が一巡するごとに変えるショートスターターという戦術も注目された。

 野球はバッターが打って点を取り、ピッチャーがその点数以下に抑えれば勝つスポーツだ。そのための“正解”は、チームによっても、相手によっても異なるはずだ。たとえば僕は内野手をしていたころ、満塁のピンチでホームランバッターが打席に立つと安心した。ホームランバッターの多くは、足が遅い。内野ゴロで守備が多少もたついたとしてもアウトにできる確率が高いからだ。逆に足の速いバッターのときは、ボテボテでも点が入る可能性があるから、守りながら緊張感が増す。緊張すればその分、ミスの可能性も上がる。ならば、チャンスが多く回ってくる四番には、足の速い選手を置けばいいではないか。

 100球過ぎてから調子が上がるようなピッチャーもいるだろうし、調子がいい日は、もっと投げられるピッチャーもいるだろう。逆に9回を9人のピッチャーで回したら、相手は混乱するのではないか? ホームランバッターが一番にいたら、相手のピッチャーは嫌なのではないか? 外野は2人で守って、センターラインにもうひとり内野手を置いて5人にしてみたらどうか? 僕は2022年シーズン、自分が思いついた作戦をどんどん実戦で試してみようと思っている。

最初のシーズンは「成長」のために

 もちろんやってみたらうまくいかないこと、間違えていることもたくさんあるだろう。それならもとに戻せばいいだけのことだ。でも新しいことにどんどんチャレンジしなければ、チームもプロ野球も変わっていかないと思う。「また新庄が馬鹿なことやっている」と思われるのは構わない。100のチャレンジのうち、ひとつでも成功すれば、そこから何かが生まれるはずだ。

 選手が成長し、僕も成長する。最初のシーズンは、そのために使いたい。だから「優勝を目指さない」と断言したのだ。

 もちろん、いろんな歯車が噛み合ってチームが勝ち続け、シーズンの終盤になって優勝争いをしているという可能性がないわけではない。そうなると選手も“その気”になってきて、エンジンがかかってくるだろう。

 2006年にファイターズが日本一になったときも、そんな感じだった。春先からがむしゃらに優勝を目指していたわけではなく、順位が少しずつ上がると同時に選手のモチベーションも上がっていった。

 終盤になると、選手同士でモチベーションを上げるための言動が自然と発生するようになって、そのいいムードを保ったままリーグ制覇。さらに勢いは衰えず、一気に日本一になった。

 監督が「優勝を目指す」と言ったからといって、優勝できるわけではない。選手のなかから「優勝できる」「優勝したい」という空気が生まれなければならないのだ。選手たちが「監督は優勝を目指さないと言っていたけれど、俺たちの力で優勝しよう」と思ってくれたら最高だ。戦力不足だと思っている僕を見返してほしいと密かに願っている。

スリルライフ

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