贈りもの/前島亜美「まごころコトバ」㉕

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公開日:2022/4/1

前島亜美「まごころコトバ」

 20歳の誕生日、特別なものが欲しいと思った。

 これからの人生でもずっと大切にできるような、いつも自分の身近に置けるようなもの。

 19歳だった私は、まだ自分の好みや感性を把握しきれていなかった。アクセサリーをつけることにも慣れておらず、淡々と迫ってくる誕生日を前に、どんなものだったらずっと家に置いておけるだろうと部屋を見渡していた。

 目に入ったのはひとつのグラスだった。

 撮影で初めて沖縄に行った時、思い出にと自分用に買った琉球グラス。透明なガラスにピンク色が溶け込んでいて、泡のような気泡が美しく、お気に入りで毎日のように使っていたもの。

 そうか、ガラス。私は透明で、美しいものが好きなのかもしれない。

 ガラス製品、グラスなどを調べている中で「江戸切子」というものを見つけた。

 江戸切子。デパートなどで見たことがあった。透明なガラスの表面に色のついた薄いガラスが巻かれていて、それを削ることでいくつもの線が現れ、重なり、宝石のような見た目をしているグラス。

「職人がひとつひとつ手作りしています」という言葉にとても惹かれたのを覚えている。

 どうせなら、良いものを、本物を。という気持ちで、都内にある江戸切子の工房と販売をしている場所へと向かった。

 部屋に入った瞬間、ずらっと並ぶ江戸切子がとても輝いて見えた。こんなにも綺麗なものなんだと感動し、圧倒された。

 江戸切子はグラスだけでも、ぐい呑みやワイングラスなど様々な種類があり、小鉢やプレート、花瓶なども豊富に置いてあった。

 壊さないようにと遠くから慎重に見ていると「触ってみてください」と声をかけていただいた。

 落とさないよう慎重に触ると「わっ」と思わず声がでた。手触りがまるで違うと思った。模様のあるガラスというと、固くザラっとした印象があったが、手にした江戸切子は丸みがあり、ぴったりと手に馴染む柔らかさを感じた。

「これでお酒を飲むと、より美味しいですよ」と話していた笑顔がとてもすてきだった。

 ひとつひとつの作品を見ながら、職人さんの思いを聞き感動し、どれを手にとるか悩む時間はとても楽しいものだった。

 なかでも、心に響いた言葉があった。

「作家は一点物を作る。職人は全く同じことをくるわずできるから職人なんですよ」と。

 ショーケースに並ぶ江戸切子はどんなに細かい線でもくるいなくまっすぐ、ときにゆるやかに、ときに大胆に存在していて、鍛錬の末の“凛とした美しさ”を感じた。

「どんなに世界が変わっても、“贈りもの”がなくなる時はこないと思うんです。感謝の気持ちを、言葉よりももっと伝えたいと思いますもんね」と。

 言葉のひとつひとつに込められた“まごころ”に心を打たれた。

「簡単にはなれません。だから職人なんです」。自信と誇りが、とてもまぶしく、かっこよかった。

 初めてのお酒は、江戸切子で。そう心に決め、青色が美しい江戸切子を、自分への贈りものにした。

 以来4年間、すっかり江戸切子の魅力に惹かれ、1年の終わりや、なにかをがんばった後にお店へと伺い、少しずつ作品を集めるのが楽しみになっている。

「ガラスは繊細に見えて、タワシでゴシゴシ洗っても傷がつかない強さがあるんですよ」

 美しさには、意味がある。自分が価値を感じられるものと出会えたのは幸福だと思った。

 職人さんのまごころのこもった作品。色褪せない美しいガラスを、人生の節目に少しずつ集めていこうと思う。そして、私自身も、大切な人達へ贈りものをする時に、感謝の気持ちと、まごころがこもった贈りものができる人でありたいと思った。

第26回に続く

まえしま・あみ
1997年11月22日生まれ、埼玉県出身。2010年にアイドルグループのメンバーとしてデビュー。2017年にグループを卒業し、舞台やバラエティ番組などで活躍。またアプリゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(2017年)でメインキャストの声を演じ、以後声優としても活動中。

Twitter:@_maeshima_ami
オフィシャルファンクラブ:https://maeshima-ami.jp/

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