カブトムシを入れる虫かごがほしくて、交換条件にはじめた剣道【虫かごと剣道】/ナダル『いい人でいる必要なんてない』

文芸・カルチャー

更新日:2022/7/21

 人に気を遣いすぎて疲れしてしまう、思ったことをなかなか言えない…。そんな「人間関係」で悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

 今回は、人気お笑いコンビ、コロコロチキチキペッパーズ・ナダルさん初の著書『いい人でいる必要なんてない』をご紹介します。

 バラエティー番組に引っ張りだこのナダルさん。本音で生きる彼の姿の裏には、幼少期のいじめ体験や劣等生だった養成所時代など、数多の苦悩や葛藤がありました。そんな経験から「自分を犠牲にしてまで、いい人でいる必要はない」と導き出したナダル流の「本音で生きる術」をまとめました。今最もストレスフリーな男の生き方を綴るエッセイです。

※本作品はナダル著の『いい人でいる必要なんてない』から一部抜粋・編集しました

いい人でいる必要なんてない
『いい人でいる必要なんてない』(ナダル/KADOKAWA)

虫かごと剣道

 僕はある時、剣道を始めることになった。時期は覚えていないのに、始めることになったきっかけはしっかりと覚えている。

 カブトムシを入れる虫かごが欲しくて、母にねだった時のことだった。「剣道をやるんなら買ってもええで」と言われ、目先の欲に負けて安請け合い。以降ずいぶんと長い期間通わされることになった。今でも、割に合わなかったと思っている。

 週に1回、日曜日にその日はやってきた。夏は剣道具が蒸れてサウナスーツみたいになるし、素足でやるから冬は寒さでやられるし……快適な時期がほとんどない。剣道具はずっとくさいし、竹刀が体に当たれば痛い。だから、毎回行くのが嫌すぎて駄々をこねたり「お腹痛い」って言ってみたり、あの手この手を使ってはサボろうとしていたのだ。

 ある日、「今日は絶対に行かん!」と心に固く誓った時がある。その日の僕はいつにも増してサボるのに本気だった。部屋の内鍵をかけて、父親に声をかけられても「絶対に行かん!」と言い張った。今日はやっと剣道から逃れられる……と思ったのもつかの間。ドアの鍵がバキーンと壊れ、扉が開く。父が外から工具でドアを破壊し、僕を剣道から守るものはなくなってしまったのだ。

 僕は抵抗するようにドアのふちに手をかけてつかまった。すると父親が僕の両足をつかみドアから離そうとして僕はしばらく地面と水平になった。その時の僕は、こいのぼりがふわりと風を受けた時のように身体がきれいに浮いて、ちょっとした爽快感があった。

 虫かごの代償にしては、あまりに長く過酷な習いごとの思い出。だけど、もしかしたら精神力を鍛えたいといった親心があったのかもしれない。

<第3回に続く>


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