周りから真面目だと思われるよりも、人から笑われる方がいい【捨てられない正義感】/ナダル『いい人でいる必要なんてない』

文芸・カルチャー

更新日:2022/7/21

 人に気を遣いすぎて疲れしてしまう、思ったことをなかなか言えない…。そんな「人間関係」で悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

 今回は、人気お笑いコンビ、コロコロチキチキペッパーズ・ナダルさん初の著書『いい人でいる必要なんてない』をご紹介します。

 バラエティー番組に引っ張りだこのナダルさん。本音で生きる彼の姿の裏には、幼少期のいじめ体験や劣等生だった養成所時代など、数多の苦悩や葛藤がありました。そんな経験から「自分を犠牲にしてまで、いい人でいる必要はない」と導き出したナダル流の「本音で生きる術」をまとめました。今最もストレスフリーな男の生き方を綴るエッセイです。

※本作品はナダル著の『いい人でいる必要なんてない』から一部抜粋・編集しました

いい人でいる必要なんてない
『いい人でいる必要なんてない』(ナダル/KADOKAWA)

捨てられない正義感

 中学校でのいじめをきっかけに、僕の性格は暗くなっていった。それでも、高校に進学してしばらくは、掃除をしていない男子生徒を見かけたらやっぱり「ちゃんと掃除しいや」と注意してしまうくらいの正義感は残っていた。

 当時は、堅い考え方かもしれないが、学校で勉強させてもらっているんだから、ちゃんと掃除したりテスト勉強したりするのが当たり前だと思っていた。ルールとして決められていることはしっかりみんなでやるべきで、やらない人がいたらまわりが注意してやらせるようにする。どうしてもこの考え方から抜け出せなかった。

 だけど、僕が注意している一方で「まあまあ、そんなに怒らんでもええやん」と陽気になだめてくる友だちがいた。結果、場が和んだり、その友だちのまわりには人が集まっていたりする。その姿を見ていると、真面目に生きることよりも上手く生きる方法はこれなんじゃないかと思った。

 人は、どれだけまわりがうるさく間違いを指摘したところで自分で気が付かなければ直そうとは思わない。それなら、自分が真面目なことを言っても、他人を変えることなんてできないのだ。

 僕の真面目さ。それは、たぶん母から受け継いだものだと思う。小さい頃から、母に「真面目に生きてほしい」と言われ続けてきた。僕は高校まで、母の言うとおり真面目に勉強してきた。だけど、勉強は全然楽しくないし、人とも上手くやっていけない。人に優しくて真面目な母を見ていて思うことがある。

 本当に真面目でいることはいいことなのだろうか。僕のまわりでは争いごとが起きた時に、「そんな怒らんといて~」と軽く受け流している人のほうが上手く世の中を渡っている気がする。僕は何度立ち上がっても小さな石につまずき続けて、全然前に進めない。それでも真面目でいることが大事なのだろうか。

 僕は、母が好きだし育ててもらって感謝もしている。母の生き方を否定したいわけでもない。ただ、僕は自分の生き方を見返して、この世の中を生き抜くために必要なことを学んだ気がした。

 それは、誰かの上に立って頭を押さえつけることじゃなくて、みんなから下に見られて「あいつはまたバカなことを言ってるよ」と笑われることだった。自分が話しかけやすい人はどんな人かを考えたら、やっぱり気さくな人だし、うるさく注意しない人なんだと思う。

 クラスの中のいわゆる〝陽キャ〟と呼ばれる人たちの共通点はもうひとつある。それは、なんでもできる完璧な人間よりも、少し抜けているくらいのほうが人が集まってくるということ。人に警戒されずに受け入れてもらえる自分でいるためには、真面目さはいらないのかもしれない、と思った。

 誰かに真面目だなと思われるよりも、誰かに笑われるほうがいい。

 誰かを不快な気持ちにするよりも、楽しい気持ちにしたほうがいい。

 高校生の頃はまだまだ衝突が多かったものの、少しずつ笑われることに慣れていって、大学生になる頃には人間関係はかなり良好になっていった。

 しかし、笑われることに慣れて芸人として過ごしている現在でも、生まれ持った正義感がたまに顔を出すことがある。電車の中で、おじいちゃんやおばあちゃんが立っているのに、その目の前で座ってスマホを触りながら喋っている若者を見ると、つい言ってしまう。

「おばあちゃんが立ってますんで」と。

 もちろんスマホを触っている人だって、体の調子が悪くて座っているのかもしれない。目に見える情報がすべてじゃない。そう思うから、そんなに強くは言えないけど、それでも漏れ出る正義感はやっぱり捨てられないみたいだ。

<第6回に続く>


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