クラスメイトから告白された紗月。保険をかけるような告白に腹が立ち…/5分後に恋の結末 友情と恋愛を両立させる3つのルール③

文芸・カルチャー

更新日:2022/7/20

著:橘つばさ、桃戸ハル、絵:かとうれい著の小説『5分後に恋の結末 友情と恋愛を両立させる3つのルール』から厳選して全5回連載でお届けします。今回は第3回です。全編、意外な結末で大人気の「5分後に意外な結末」シリーズ。今回は、恋と友情をテーマにした女子高生3人の青春ストーリーをお送りいたします。恋の悩みを抱えている人や恋愛真っ只中の人、感情移入したい人にぴったりの青春小説。『5分後に恋の結末 友情と恋愛を両立させる3つのルール』で、キュンとしたり、意外な結末にドキッと驚いたり、様々な感情をお楽しみください。屋上から戻ろうとすると、クラスメイトの立川に呼び止められる紗月。彼氏ができた紗月に「俺も、ほんとは宮野のこと好きだったのに」と伝える立川。保険をかけるような告白に腹が立った紗月は…。

5分後に恋の結末 友情と恋愛を両立させる3つのルール
『5分後に恋の結末 友情と恋愛を両立させる3つのルール』(橘つばさ、桃戸ハル:著、かとうれい:イラスト/学研プラス)

笑顔の保険

 食べ終わった弁当箱を片づけながら、エミは何度目かのため息をついた。

「男の子って、どうしてズルいことばっかするのかなぁ。やっぱり、何を考えてるのか、いつまで経ってもわからないよ……」

「相変わらずだねぇ、モリエミの男子ニガテ症候群は」

 快活に笑いながら、紗月が小柄なエミの頭を、ぽんぽんと軽く叩く。

 エミは、紗月に頭を触られるのが嫌いではない。むしろ安心感さえ覚えながら、エミは上目づかいで紗月を見た。

「紗月ちゃん、ほんとすごいよね。彼氏もいるし、男の子の友だちもたくさんいるし。あたしは、話すのもニガテだよ」

「まぁ、ズルい男子ばっかりじゃないからね。話してて楽しいことも、たくさんあるよ?」

 そう言って、紗月は牛乳パックのストローをくわえた。エミは理解できないと言わんばかりに首を横に振るばかり。そんなやり取りを聞いて笑ったのは、瑞穂だった。

「わたしも、しばらく恋愛はいいかな」

 その笑顔は、苦笑いか、あるいは自嘲の笑顔だったのかもしれない。それに気づいた紗月がストローから口を離して、ため息をつく。

「もー、みっちゃんまで。恋愛でできた傷を癒すには、新しい恋愛をするしかないんだよ?」

「みんながみんな紗月みたいに、切り替え早いわけじゃないんだから……。あ、ほら、もう昼休み、終わりよ。教室に戻りましょ」

「はーい……」と気の抜けた返事をした紗月が、詩都花に続いて立ち上がる。

「そんなにネガティブになることないのになぁ」

 そうつぶやきながら、紗月が、屋上から校舎内に戻るドアに向かって歩き始めたときだった。

「宮野」

 うしろから名前を呼ばれて、紗月は振り返った。そこに立っていたのは、紗月のクラスメイトの男子生徒だ。

「立川、どうしたの?」

 男子を苗字で呼び捨てにして、紗月が尋ねる。立川と呼ばれた男子生徒は、視線を向ける先を何度か迷ったあと、決意したように紗月の顔をまっすぐに見つめた。

「その……べつに、聞くつもりなかったんだけど、さっき話してるの、たまたま聞こえちゃって……。あのさ……」

 モゴモゴと口ごもる立川に、「なに?」と紗月が首をかしげて、続きをうながす。

「宮野、彼氏できたの?」

「へ?」

 立川からの意外な質問に、紗月は、手に持っていた牛乳のパックを落とすところだった。

 一方、紗月と立川の様子に気づいた詩都花、エミ、瑞穂の3人は、これから何が起ころうとしているのかを、少し距離をおいたところから懸命に探ろうとしていた。もうすぐ鳴るはずの予鈴のことなんて、とっくに頭から消えている。

「あぁ、うん……まぁ、できたけど」

 紗月も、そう答えながら、立川が何を言おうとしているのか探っていた。

 立川とは、さほど仲がいいわけではない。クラスが一緒なので、学校外でも会えば挨拶くらいはするし軽く言葉も交わすが、あくまで「クラスメイトとして」であって、それ以上でもそれ以下でもない。

「そうなんだ……。だれ? この学校の生徒?」

「ううん、違うけど」

 立川の顔には笑みが浮かんでいるものの、それは、他人が選んだ服を無理やり着せられたかのような、どこか不自然で板についていない笑みだった。

 そのぎこちない笑顔のままで、立川が口を開く。

「そうなんだ。でも、彼氏できたんなら、よかったじゃん」

「あぁ、うん……ありがとう」

 立川の世話になったわけでも、心配をかけたわけでもないので、「ありがとう」と言うのが正しいのかどうなのか、微妙に判断に迷いながらも紗月が口にした直後――。

「うーん、でも残念だな。俺も、ほんとは宮野のこと好きだったのに」

「……は?」

 口パクで、キャーッ! と叫んでいるのは、紗月と立川の邪魔にならないところで耳をダンボにしていた、詩都花とエミと瑞穂の3人である。

 今の立川の言葉は、どう考えても紗月への告白だ。3人が見る限り、紗月もポカンとしている。彼女にとってもサプライズであったことは間違いない。

「でも、遅かったんだな。とられちゃったなー、宮野のこと」

 そう言って頭のうしろをかきながら、立川が照れくさそうに笑う。それはまるで、何かをごまかそうとしているような笑顔だった。

 すべてを見ていた詩都花たち3人は、互いの手をとり、言葉なく、興奮を伝えあっていた。紗月が立川にどう答えるのか、ソワソワしながら見守る。

 ごめんね。

 付き合ってる人がいるから、立川の気持ちには応えられない。

 でも、好きになってくれてありがとう。

 これからも、友だちとして、よろしくね。

 いろいろなパターンを頭の中でシミュレーションしていた3人の前で、紗月がついに口を開いた。

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