“恋愛運”最強の日! 複数の男性から同時に告白された詩都花。その答えは…/5分後に恋の結末 友情と恋愛を両立させる3つのルール⑤

文芸・カルチャー

更新日:2022/7/20

著:橘つばさ、桃戸ハル、絵:かとうれい著の小説『5分後に恋の結末 友情と恋愛を両立させる3つのルール』から厳選して全5回連載でお届けします。今回は第5回です。全編、意外な結末で大人気の「5分後に意外な結末」シリーズ。今回は、恋と友情をテーマにした女子高生3人の青春ストーリーをお送りいたします。恋の悩みを抱えている人や恋愛真っ只中の人、感情移入したい人にぴったりの青春小説。『5分後に恋の結末 友情と恋愛を両立させる3つのルール』で、キュンとしたり、意外な結末にドキッと驚いたり、様々な感情をお楽しみください。1日の間に立て続けに告白される詩都花。放課後、下駄箱の裏から詩都花へラブレターを送った相手であろう人物の声が聞こえてくる。どうやらその人物は今日の恋愛運が最強らしく…。

5分後に恋の結末 友情と恋愛を両立させる3つのルール
『5分後に恋の結末 友情と恋愛を両立させる3つのルール』(橘つばさ、桃戸ハル:著、かとうれい:イラスト/学研プラス)

 詩都花は即座に思い直したが、心の中のそわそわは、止まらない。

「とりあえず、放課後に体育館裏、行ってみたら?」

 完全に楽しんでいる様子の紗月に、もう、詩都花は何も言い返さなかった。

 

 あり得ない、と詩都花は思った。

 午後の授業の合間、詩都花が図書室で本を選んでいると、見覚えのない1年生の男子生徒が近づいてきた。成長を見越して、大きめのものを買ったのだろう。制服のサイズが、ぜんぜん体に合っていない。頰にソバカスのある、幼さすら感じさせるその男子生徒は、長い袖を握りしめ、緊張した面持ちでこう言った。

「桜木先輩、ボクじゃ、ダメですか?」

 考えてみてくれませんか? と、子犬のような潤んだ目で「お願い」されて、無下に断ることもできず、詩都花は教室に戻った。

 追い打ちをかけられたのは、帰りのホームルームが終わった直後である。詩都花は教室を出たところで、高校生にしては体格のいい男子生徒に正面からぶつかりそうになった。詩都花が謝ろうとすると、それより先に、男子生徒が「好きだ!」と声を張り上げたのだった。

 これにはさすがに周囲もギョッとした様子で視線を向けてきた。そこに茶化す気配がまじってきたところで、詩都花は音を上げた。男子生徒に何も返事をしないまま、エントランスへと駆け出してしまったのである。

「まぁ、あれはビックリするよねー」

「あたしだったら、絶対にムリ!」

 下駄箱のところで追いついてきた紗月とエミも、さすがに困惑の表情になる。エミは詩都花に対して、完全に同情のまなざしを注いでいたが、一方の紗月は、この状況をおもしろがる気持ちのほうが勝っているようだった。

「で、放課後になったわけですが、体育館裏の『名無しクン』は、どうするおつもりですか? 詩都花サン」

 インタビュアーのつもりなのか、紗月は詩都花にマイクを向けるジェスチャーをして、ニヤリと笑みを浮かべる。その含み笑いだけは、意地の悪いインタビュアーそのもののように詩都花には見えた。

「どうするも何も、なんなのこれ。男子みんなで、私をからかってるのかしら……」

「そんなわけないよ。今日の『ホロスコ!』でも、おしづの乙女座の運勢、超ラッキーだったじゃん。そんなことより、体育館裏! どんな相手か見に行こうよ!」

「紗月ちゃんが、見たいのね」

 核心をつくエミの一言にも、紗月は動じない。もはや開き直っているようにも見える。紗月は下駄箱から靴を取り出すこともせず、相変わらずニヤニヤしながら、冗談なのか本気なのかわからないことを言う。

「おしづが行かないなら、わたしが行ってこようかなぁ」

「ちょっと……悪趣味よ、紗月」

「そうだよー。ルールにも反するんじゃない? 『過干渉は禁止』だよ」

 そう、エミの言うとおり。

 内心でエミに拍手を送りたくなった詩都花だが、紗月から返ってきた反応は「えー?」という適当なもので、せっかくのエミの援護も「のれんに腕押し」で終わってしまった。

 これはいよいよ本腰をすえて説得しないとだめか、と詩都花が紗月に向き直ったときである。

「おまえ、これから体育館裏行くんだろ?」

 唐突に聞こえてきた声に詩都花は立ち止まった。自分に向けられた声だと思ったのだ。

「だから行かな――」

 途中まで声に出してから、違和感に気づいた。たった今どこからか聞こえてきたのは、男の声だった。手紙のことは紗月とエミにしか話していないので、ほかの人に知られているはずがない。詩都花がそう思ったところで、会話だけが続けて聞こえてくる。

「しかも、相手は桜木さん!」

「マジで、思いきったよなぁ……」

 周囲に人影は見えないし、話の流れからも、やはり自分に向けられた言葉ではない。

 確信した詩都花が落ち着いて様子をうかがうと、その会話は下駄箱のむこうで繰り広げられているようだった。

「あの桜木さんに告白なんて、マジで度胸あるわー。まさに、高嶺の花なのに」

「しかも下駄箱に手紙って、どんだけベタなんだよ、おまえ」

「いいだろ、べつにっ! いきなり面と向かって言うなんて、無理だし……」

 どうやら、最後の声の主が、詩都花の下駄箱に二つ折りのメッセージを届けてきた人物らしい。紗月とエミも状況を理解したらしく、詩都花の両わきで下駄箱にぴったりくっつき、耳をすませていた。

 顔の見えない「体育館裏の名無しクン」が、下駄箱の反対側でモゴモゴと言う。

「手紙を入れるのだって、メチャクチャ緊張したんだから……。入試のときだって、こんなに緊張しなかったよ……」

「そんなんで、ホントに今から告れるのかぁ?」

「名無しクン」の隣にいるのであろう友人が、からかうように言葉をはさむ。それに対する「名無しクン」の声に、初めて、わずかな力がこもった。

「ちゃんと言うよ。今日を逃したら、おれ、もう二度とこんな勇気出せない気がする」

「……って、なんで今日だけ勇気出せんの?」

 尋ねられて、「名無しクン」が「じつはさ……」と声をひそめる。それでも、下駄箱をはさんだだけのところにいる詩都花たちには、その声がはっきりと聞こえた。

「『ホロスコ!』の今日の運勢に書いてあったんだ。おれ、獅子座なんだけど、今日の獅子座は恋愛運が、この10年で最高にいいんだって。『告白するなら今日以外にナシ!』って書いてあったから……だから、勇気を出すことにしたんだ」

「『ホロスコ!』で?」

「そっか、それなら、ぜってーイケるよ!」

 そう言って、「名無しクン」と友人たちが明るく笑い合う。

 ――当然、詩都花は笑わなかった。というより、まったく笑えなかった。

「ふーん、『ホロスコ!』で獅子座って、そんな運勢だったんだ」

「まぁ、占いは気分を盛り上げるためのものだから。それがいいキッカケになるなら、べつに間違ってはないと思うよ」

 紗月とエミの感想など聞くそぶりも見せず、詩都花は下駄箱に手を伸ばす。取り出した靴を履き、上履きをしまった詩都花は、大きなため息をついた。

「体育館裏に行ってくる」

 おおっ、と声を上げた紗月たちが、二言目をはさむ前に言う。

「断ってくる」

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