忘れられた同級生／小林私「私事ですが、」

　高校の軽音部で組んでいたバンドメンバーと久しぶりに集まることになった。僕は当時ギターを担当し現在はミュージシャンというほぼフリーターのようなもので、ボーカルは週三回のバイトを一日二時間だけこなすというほぼ無職のような状態だった。だからボーカルとはしょっちゅう遊んでいたのだが、ベースとドラムはしっかり働いていた為、会って食事をするのは本当に久しぶりだった。

　高校生当時から使っていたグループラインが久々に動く。バンド名は「BLACK＊RABBIT（ブラックラビット）」、当時誰も異を唱えなかったことが不思議でならない。ラインの内容は軽口が過ぎるので割愛するが、そういえば自分の高校の偏差値は40を下回っていたんだった。

　せっかくなので昼過ぎから遊ぼうと提案する。ゲームセンターか本屋か中古ショップか、適当にブラブラしながら夜はせっかくなら豪勢にどこかの食べ放題でも行くんだろうというイメージだ。ウキウキである。

　ところがドラムから驚きの提案があった。この店はどうかと送られてきたリンクは焼肉屋。なんと6500円もする、食べ放題ですらないコースだ。社会人とはこうも違うのかと愕然とした。ちなみにボーカルは「サイゼとかに行くんだと思ってた」と言っていた。それは高校生すぎやしないだろうか

　怯えながら高級焼肉屋に到着。店員に忘れられていたのか飲み物すら来ない状態で30分ほど待ったのはさておき、今回の本題である。近況報告から昔話に花を咲かせ、そういえばあんな奴やこんな奴がいて、あんな事やこんな事があったなと話していた。

　その中で一人、僕が、名前は思い出せないのだがこんな奴がいたよなと言うと、恐ろしく反応が悪くなった。容姿の特徴やクラス、アイツと仲良くしていて何部だったはずだと言っても、三者とも怪訝そうな顔をしている。

　……いないのか？ いや、そんなはずはない。名前こそド忘れしているが声も顔もハッキリと覚えている。しかし元バンドメンバー達の視線は厳しい。あの頃の絆はどうした。イマジナリーフレンドとまで言われたが、そのはずはない。そもそもそこまで仲良くなかったし連絡先も知らないのだから。

　しかし「いたんだ！絶対にいたんだ！」と反論すればするほど、本当に嘘のようだ。漫画やアニメだったらその友達は振り返った途端に電車が通って姿形もなくなっているか足元から光の粉になって消えているだろう。だとするといないはずないのだが

　その日は、そんな奴はいないし僕は疲れているという結論に終わった。かなり腑に落ちない。本当にいた場合、コイツらは全員友達の顔を忘れたカス野郎共だ。いなかった場合は病院に行きます。

　この問題を解決する最も簡単な方法。卒業アルバムを確認すれば良い。最も、というかこれしかない。しかし怖い。いなかった場合が怖すぎる。令和の「ディスマン」を誕生させてしまうようなものだ。そういうスレッドばかり見ていた己が憎い。結局その日は卒業アルバムを開くことなく眠った。

……

　ここまでが半年前の話である。つい一週間ほど前、私はついに意を決して卒業アルバムを開いた。ここに至るまで周囲からの発言が「記憶違い」「妄言」「主人公がなる記憶喪失」「言えば言うほどいない」「いいから、な？ 仕事を休め。疲れてるんだよ」など、だんだん反論から哀れみへ変遷していったことで肚が決まった。

　結論から言おう。いた。

　顔も、記憶の奥底にあったであろう名前も、しっかり一致した。

　連絡先も共通の友人の連絡先も知らないので、もしかしたら一生会うことはないかもしれないが、確認出来て良かった。ありがとうミヤシタ、これを読んでたら連絡ください。

　僕はカス野郎共をボコボコにしてきます。さようなら