寺島惇太「拝啓、日陰から」⑧陰キャと上下関係

　いつの時代も上下関係というものは悩ましいものです。縦社会を全肯定するわけではないものの、やはり先輩と付き合う上での礼儀は必要だと思いますし、逆に後輩に気を使わせすぎないようにするのも難しい……。そこに陰キャ要素が加わると、余計にややこしくなる。そう、ぼくは常に上下関係について悩んできたといっても過言ではありません（大げさ）。

　まずは先輩との付き合い方について。長年様々な縦社会の中に身を置いてきた中で20代半ばのある時ふと気が付きました。『あれ？俺、先輩と仲良くなるの下手すぎじゃね？』と。これは学生時代に経験した、野球部での厳しい縦社会が影響している気がします。当時は『先輩こそがルール、先輩に逆らうと高火力のデコピンをくらう』という環境で常に先輩に怒られないように顔色を見ながら生きていました。そのため未だに先輩を前にすると、「なにを言っても失礼になるんじゃないか……もし怒らせてしまったらどうしよう……」と体が萎縮してしまうんです。

　いや、なにも怖い先輩ばっかりじゃないんですよ。むしろやさしい人も多いし、逆に気を使って話しかけてくださる人だっています。それでも、「自発的に話しかける」という行為ができない。

　こんな悩みを打ち明けると、「相手のことを褒めておけばいいんだよ」なんてアドバイスされることがありますが、そんなのもってのほか！ たとえば、「先輩の服、オシャレですね」と言ったとしましょう。でも、それって、先輩の着ているものがオシャレかどうか、ぼくがジャッジしているみたいじゃないですか!? ちょっとだけ飛躍しますけど、たとえば目の前に位の高い貴族がいたとして、「いやー、今日のお召し物、オシャレですね」なんて言えます？ あ！ 今『普通に言えるけど…』と思ったそこのあなた！ きっとそれが普通です！ あまり深く考えすぎずこれからも貴族との良好な関係を築いていってください！
　でもなぁ、『褒める』って微かに上からの目線が含まれてしまってる気がするんだよなぁ…。

　わかってるんです。さすがにそれは考えすぎだってことくらい、わかってる。でも先輩を前にすると思考がグルグルしだして、固まってしまいます。今回服装を褒めたら次回からもずっと褒め続けないといけないのか……とか。前回服装を褒めたのに今回は触れないってことは内心今日の服はダサイと思ってると誤解されないだろうか……とか。
　結果、口にするのは、天気の話題。ああ、不甲斐ない……。

　その点、陽キャの方々はうらやましい。彼らは先輩を軽くいじったりもします。傍から見ていると「それ失礼じゃない!?」ってことを口にしても陽キャは持ち前の明るさと奇跡のバランス感覚でその場を和やかにします。先輩もニコニコです。でも、そこで気づいたんです。陽キャのフランクなコミュニケーションというのは、先輩にとってもありがたいものなのだと。誰だって壁を作られたらうれしい気がしません。むしろ壁の存在をぶち壊すように、気軽に話しかけられたほうがありがたい。陽キャよ、さすがだ……。

　一方で後輩とは比較的打ち解けやすいタイプです。自分で言うのもなんですが恐らく僕に初対面で『恐い』とか『厳しそう』という印象を抱く後輩の方ってほぼいないと思うんですよね。ずっとニヤニヤしてるので大体の人が気軽に話しかけてくれます。なので、こちらも安心して気兼ねなく話しかけられます。たまにずっと後輩だと思っていた人が突然タメ口を使ってきてビクッとする時がありますが変に距離を取られてギクシャクするよりもそっちの方が良いです。まぁ、もしかして俺、本気で先輩だと思われていないのかな？ と不安になったりもしますが……（笑）。

　そんな感じなのでみんな気軽にイジったりもしてくれるんですがごく稀に、「あれ？ なんかこの子にイジられても気持よくないぞ？ お互い損してる感じになってるぞ…？」と感じる瞬間があります。背伸びしてる感というか…本来はそんなキャラじゃなさそうなのに先輩と仲良くなろうとして空回ってるというか……。そのときに思うんです。「ああ、この子はぼくと一緒なんだ」と。つまり、陰キャの後輩。陽キャは先輩のいじり方が上手な反面、陰キャは下手です。それは身をもって理解しています。だから時々、陰キャの後輩にいじられると、「なんか無理してる！」と瞬間的に感じるんです。同族特有の嗅覚が働くのでしょう。

　上下関係には課題が山積みですが、目下、「陰キャの後輩とどう付き合うか」を解決すべきなのかもしれません。

構成協力＝五十嵐 大