『わたしの美しい庭』『傑作はまだ』『CLANNAD-クラナド-』心にじんわり響く! 親子関係が印象的な1冊【ダ・ヴィンチWeb推し本+】

文芸・カルチャー

更新日:2022/6/6

ダ・ヴィンチWeb編集部推し本バナー

ダ・ヴィンチWeb編集部メンバーが、月ごとのテーマでオススメの書籍をセレクトする、推し本“+”。6月のテーマは、「親子関係が印象的な本」です。

母親の深い愛情に読者も救われる『『湯を沸かすほどの熱い愛』(中野量太/文藝春秋)

『湯を沸かすほどの熱い愛』(中野量太/文藝春秋)
『湯を沸かすほどの熱い愛』(中野量太/文藝春秋)

「暑いでしょ~」新宿ど真ん中のコンビニで、友達のお母さんのように店員さんに話しかけられた。違和感がなくて優しくて、その人の背景がとても気になった。一瞬で心を奪ってくれる愛情深い人っているよなと思いながら、『湯を沸かすほどの熱い愛』の主人公を思った。本作は、宮沢りえ主演映画の中野監督自身による原作小説。余命2カ月と宣告された銭湯の女将・双葉と訳ありの家族を巡って最期の過ごし方がドラマチックに描かれる。気丈に振る舞い、深い愛情で正面から娘たちにぶつかっていく。「誰にも触れられたことの無い心の深く冷たい部分を、双葉さんに触れられた気がした」作中人物達が、双葉によって殻をやぶられていくように、その強さに読者も救われる。“手話のはなし”はぐっとくるので、注目して読んでほしい。(中川寛子/ダ・ヴィンチWeb副編集長)


青年になった息子が初めて会った父親に向ける感情は?『傑作はまだ』(瀬尾まいこ/文藝春秋)

『傑作はまだ』(瀬尾まいこ/文藝春秋)
『傑作はまだ』(瀬尾まいこ/文藝春秋)

 ほぼ引きこもり生活を送っている小説家・加賀野。学生の頃に一度だけ関係を持った女性との間に生まれた息子・智が、25年たって初めて加賀野を訪ねてくる。しばらく一緒に生活することになった父と息子。世間知らずの加賀野が智の影響で少しずつ社会とかかわりを持っていく様子が、まるで親と子が逆転したかのようで面白い。そんなふたりの何気ない会話や、やり取りの中にあるのは、実の父親を思う無償の愛情だ。ふたりが「家族」といえるのかはわからないが、どんなかたちであっても親と子がお互いを思い合うことは打算的な気持ちからくるものではない。そんなかけがえのない優しさや温かみというものを再認識せずにはいられない、爽やかな感動をくれる物語だった。(坂西宣輝)


家族に“なっていく”、4人の話――『の、ような。』(麻生海/芳文社)

『の、ような。』(麻生海/芳文社)
『の、ような。』(麻生海/芳文社)

 主人公の希夏帆(きなほ)は作家をしながら一人暮らしをしていたが、ある日いきなり恋人の愁人(あきと)が2人の少年・冬真と春陽を連れてきて、不思議な同居が始まる。彼らは愁人の親戚で、両親を交通事故で失ったばかり。愁人のプロポーズすら保留していた希夏帆はいきなり夫婦のようになり、母のようになり、2人の子どもを育てることに……。本作の親子関係は親子関係でも、親子「のような」関係だ。とはいえ、希夏帆と愁人は新しい“親”として子どもたちに接するのではなく、“大人”としてともに暮らす。それは他人行儀な冷たさでは一切なく、大人として子どもを見守り養育していくようすには、いつくしみを感じて読んでいるこちらの心が温かくなる。親子って、何も血のつながりだけでなく、日々の悩み、悲しみ、喜びを共有して暮らしていく存在なのかもしれない。4人のお互いへの思いやりが深く、悲しみを抱えながらもゆるやかに“家族”になっていくのが、たまらなく嬉しい。(遠藤摩利江)



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血のつながりがない親子の“強いつながり”に救われる『わたしの美しい庭』(凪良ゆう/ポプラ社)

『わたしの美しい庭』(凪良ゆう/ポプラ社)
『わたしの美しい庭』(凪良ゆう/ポプラ社)

 本書の登場人物はみな、世間の価値観や身近な人の言葉などに少しずつ傷ついている。それがどうにも他人事には思えない。なかでも、小5の百音と統理の親子の事情は少し込み入っている。

 百音と統理には血のつながりがない。統理の元妻と夫との間にできた娘が百音で、両親の死によって統理に引き取られる。周囲の「心配」をよそに、2人は互いを支え合いながら、楽しく日々を過ごす。統理は時折百音に元妻の面影を見て、百音は母が受け入れられなかった統理の「丁寧」さを自然に受け入れている。ふたりの「親子関係」が素敵なのだ。

 私自身はというと、人生でもっともつらい経験をした時、シェルターになってくれたのは親だった。けれど、それは「血がつながっているから」というだけの理由ではないはずだ。「親子」の形の多様さを感じる1冊。(宗田昌子)


『CLANNAD-クラナド-』(しゃあ:作画、Key:原作/KADOKAWA)

『CLANNAD-クラナド-』(しゃあ:作画、Key:原作/KADOKAWA)
『CLANNAD-クラナド-』(しゃあ:作画、Key:原作/KADOKAWA)

 親子関係=家族がテーマになっている作品、と聞いて真っ先に思い浮かぶのが、ゲームブランド・Keyの代表作であるアドベンチャーゲーム『CLANNAD』。「泣き」「笑い」「感動」の要素を詰め込み、「CLANNADは人生」というフレーズを生み出した名作であり、京都アニメーション制作のTVアニメも大ヒットした。さまざまなエンターテインメントに触れる機会があるけど、個人的に「涙腺決壊」した、という点で『CLANNAD』以上に泣けた作品はない。周囲に不良とみなされる主人公・岡崎朋也と、友人・同級生たちの交流が描かれる本作。中でも、不仲だった父親、および娘・汐とのエピソードは本当に泣ける。ゲームは大ボリュームの作品だけに、コミカライズを通して魅力の一端に触れてみることをオススメしたい(清水大輔/ダ・ヴィンチWeb編集長)。

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