益田ミリ、4年半ぶりの書き下ろしエッセイ!「たからもの」/小さいわたし③

文芸・カルチャー

公開日:2022/6/15

子ども時代を、子ども目線でえがく。益田ミリ、4年半ぶりの書き下ろしエッセイ『小さいわたし』。幼い頃、胸に抱いた繊細な気持ちを、丁寧に、みずみずしくつづります。「入学式に行きたくない」「線香花火」「キンモクセイ」「サンタさんの家」など、四季を感じるエピソードも収録。かけがえのない一瞬を切り取った、宝物のような春夏秋冬。38点の描き下ろしカラーイラストも掲載!

小さいわたし
小さいわたし』(益田ミリ/ポプラ社)

たからもの

「たからものを土にうめよう」

 友達が言った。

 それはとてもいい考えだと思ったので、

「うん、うめよう!」

 わたしも言った。

 なにをうめようか。

「牛乳キャップをうめよう」

 その子が言った。

「うん、うめよう!」

 給食が終わって昼休みになったらふたりでうめに行くことにした。今日の給食の牛乳キャップは捨てない約束もした。

 昼休みになった。わたしたちは牛乳キャップを持って運動場に行った。遊んでいる子たちが大勢いた。

「みんながいるとたからものが見つかってしまうね」

「だれも遊んでいないところを探そう」

 あっちこっち歩いてプールの裏の細い道を見つけた。だれもいなかった。ここなら絶対に大丈夫だ。

 背が高い草が一本はえているところがあった。

「あの草の前にうめよう」

「そうしよう」

 石で土を掘り、牛乳キャップを二枚うめた。そして、わからないようちゃんと平らにした。

「ふたりだけのひみつ」

 その子が言った。

「だれにもひみつなんだよ」

 わたしも言った。明日の昼休み、またここにたからものがあるか見にくることにした。

 次の日。

「どこに行くの?」

 昼休みに別の子が声をかけてきた。

「遊びに行くだけ」

「いっしょに行っていい?」

 その子が言うので、わたしたちはこまったなと思った。たからものの場所はふたりだけのひみつ。でも「だめ」というのはかわいそうだった。

 その子はわたしたちのあとをついてきた。プールの裏までついてきた。仕方がないのでプールのまわりを走ることにした。

「いつまで走るの?」

 その子が言うので、

「走る遊び!」

 わたしたちは言った。

「ヘンな遊び!」

 その子が言った。

 わたしたちは三人でぐるぐる走った。途中からおもしろい形の石を集める遊びになった。わたしはモルモットの形の石を発見した。

 放課後、やっとふたりだけでプールの裏に行った。

「もうだれかにぬすまれてるかもしれないね」

 昨日の背の高い草があった。その前の土を掘る。どきどきした。たからものを掘るのは、うめるよりもおもしろかった。牛乳キャップが二枚出てきた。だれにもぬすまれてはいなかった。それからわたしはモルモットの形の石をうめ、その子はしま模様の石をうめて家に帰った。

小さいわたし

<第4回に続く>

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益田ミリ(ますだ みり)/1969年大阪府生まれ。イラストレーター。主な著書にエッセイ『おとな小学生』(ポプラ社)、『しあわせしりとり』(ミシマ社)、『永遠のおでかけ』(毎日新聞出版)、『小さいコトが気になります』(筑摩書房)他、漫画『すーちゃん』(幻冬舎)、『沢村さん家のこんな毎日』(文藝春秋)、『マリコ、うまくいくよ』(新潮社)、『ミウラさんの友達』(マガジンハウス)、『泣き虫チエ子さん』(集英社)、『お茶の時間』(講談社)、『こはる日記』(KADOKAWA)他、絵本『はやくはやくっていわないで』(ミシマ社、絵・平澤一平)などがある。