益田ミリ、4年半ぶりの書き下ろしエッセイ!「ほうたい」/小さいわたし⑧

文芸・カルチャー

公開日:2022/6/20

子ども時代を、子ども目線でえがく。益田ミリ、4年半ぶりの書き下ろしエッセイ『小さいわたし』。幼い頃、胸に抱いた繊細な気持ちを、丁寧に、みずみずしくつづります。「入学式に行きたくない」「線香花火」「キンモクセイ」「サンタさんの家」など、四季を感じるエピソードも収録。かけがえのない一瞬を切り取った、宝物のような春夏秋冬。38点の描き下ろしカラーイラストも掲載!

小さいわたし
小さいわたし』(益田ミリ/ポプラ社)

ほうたい

「紙で指を切ることもあるから気をつけてね」

 ママが言っていたのは本当だった。さっきノートをシュッとめくったときに指をほんの少し切ってしまった。

 わたしは急いでママのところへ行き、血が出ている人差し指を見せた。

「切れた」

「大丈夫? でも、ちょっとだね」

 ママがばんそうこうを貼ってくれた。

 わたしはつまらなかった。ほうたいを巻いてほしかったのだ。

 前に学校にほうたいを巻いてきた子がいた。指をけがしてお医者さんへ行ったと言っていた。休み時間になると、みんなでその子のほうたいを見にいった。クラスのみんなに囲まれているその子がうらやましかった。

「ねぇ、ママ、ほうたい、しないの?」

 わたしは聞いた。

「ばんそうこうで大丈夫だよ」

 ママは言うけれど、わたしはやっぱりほうたいがよかった。

「うちに、ほうたいある?」

「うーん、あったかなぁ。あったと思うけど」

「ほうたいしたいな」

「じゃあ、ばんそうこうの上に巻く?」

 わたしは「巻く!」と答えた。

 うちに近所のおばさんがきたので、わたしは走って行って「ほら!」とほうたいの指を見せた。

 おばさんは、まぁ、とおどろいた顔をして、

「手術したの?」

 と聞いた。

 わたしはママの顔を見た。するとママは、

「そうなの、手術したの」

 とおばさんに言うのだった。

「それは大変! おだいじにね」

 おばさんは帰って行った。

 わたしは心配だった。おばさんにうそをついてしまったのだ。

「手術してないっておばさんに教えてあげようか」

 わたしが言うと、

「おばさんはわかってるよ」

 ママが笑った。

小さいわたし

<続きは本書でお楽しみください>

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益田ミリ(ますだ みり)/1969年大阪府生まれ。イラストレーター。主な著書にエッセイ『おとな小学生』(ポプラ社)、『しあわせしりとり』(ミシマ社)、『永遠のおでかけ』(毎日新聞出版)、『小さいコトが気になります』(筑摩書房)他、漫画『すーちゃん』(幻冬舎)、『沢村さん家のこんな毎日』(文藝春秋)、『マリコ、うまくいくよ』(新潮社)、『ミウラさんの友達』(マガジンハウス)、『泣き虫チエ子さん』(集英社)、『お茶の時間』(講談社)、『こはる日記』(KADOKAWA)他、絵本『はやくはやくっていわないで』(ミシマ社、絵・平澤一平)などがある。